2017 年 32 巻 4 号 p. 1369-1371
症例は61歳、男性。生来健康で特記すべき疾患の既往なし。昼食中に突発的な胸部苦悶感と嚥下障害が出現したため受診。急性冠症候群を疑い、緊急冠動脈造影を行ったが冠動脈に病変なし。頸部~胸部単純CTでは咽頭後壁左外側にAir Densityを含む単房性の構造物を認めた。食道造影検査では第6頸椎の高さに一致して直径1cmの食道憩室の所見を認め、Zenker憩室の確定診断に至った。入院後、症状は自然に改善し、経口摂取に問題がないことを確認したうえで本院退院となった。Zenker憩室は食道入口部付近にみられる圧出性の憩室であり、高齢男性に多い。上部食道括約部の弛緩障害などに伴う下部咽頭内圧の上昇により発生すると考えられている。確定診断には食道造影が有用である。主症状は嚥下障害であり、内径1cm未満の小憩室でも固形物の嚥下障害を呈することが多い。高齢者の嚥下障害の原因としても留意すべき疾患である。