日本静脈経腸栄養学会雑誌
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32 巻, 4 号
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総説
  • 髙岡 あずさ, 佐々木 雅也, 井上 真衣, 馬場 重樹, 安藤 朗
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1320-1323
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    クローン病と潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患と称され、高率に栄養不良を認める。これにはエネルギー代謝の変化も関与しているが、十分な検討はなされておらず、一定の見解は得られていない。我々が入院時に間接熱量測定を施行した成績では、両疾患ともに健常人より安静時エネルギー消費量(REE)が有意に高かったが、両疾患に有意差はなかった。一方、疾患活動性との相関は潰瘍性大腸炎にのみ認められた。これは近年の欧米からの報告を支持する結果である。また、潰瘍性大腸炎における寛解導入前後のエネルギー代謝の変化をみると、REEは有意に低下し、呼吸商は上昇した。エネルギー代謝が変化する要因として、炎症性サイトカインとの関連について検討したところ、両疾患ともにREEとIL-6の間に正の相関が認められたが、TNF-αとの関係性は認めなかった。炎症性腸疾患では、このようなエネルギー代謝の変化に応じた栄養療法が重要である。

原著
  • 松下 亜由子, 峯 真司, 熊谷 厚志, 井田 智, 望月 宏美, 中濱 孝志, 比企 直樹
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1324-1328
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】がん終末期患者では経口摂取はQuality of Lifeを維持すると考えられているがそれに関する調査は少ない。終末期患者の経口摂取とその食形態および栄養介入状況を調査した。【対象及び方法】2013年9月1日から2014年12月31日に当院緩和治療病棟で死亡した患者247名の最後の食事から死亡までの期間とその食形態、栄養介入状況を調査した。【結果】全患者中154名(62.3%)が死亡前1週間以内に経口摂取をしており、これらの最後の食形態は流動やゼリー形態が99例(64.3%)で、五分粥食以上の形態が55例(35.7%)であった。栄養介入後、1週間経口摂取が継続できた患者では1週間目の摂取栄養量が有意に増加した(p<0.001)。【結論】終末期であっても6割以上の患者は死亡1週間以内まで経口摂取が可能であった。栄養介入により一部の患者の経口摂取量は増加した。

  • 斎藤 健一郎, 宗本 義則, 牧野 尚恵, 堀田 栄治
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1329-1333
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】進行再発大腸癌における化学療法中止のタイミングについて、Palliative prognostic index(以下、PPIと略)、Prognostic nutritional index(以下、PNIと略)、Controlling nutritional status(以下、CONUTと略)といった客観的評価が指標になりうるか検討した。【方法】2006年4月~2015年3月の9年間に癌死した大腸癌患者177例のうち、最終化学療法時点でのPNIが計算可能であった79例を対象とし、PPI、CONUTも算出して比較検討した。【結果】最終化学療法後90日未満で死亡した短期生存群58例と90日以上生存した長期生存群21例の比較では短期生存群のPPIが有意に高値、PNIが有意に低値、CONUTが有意に高値であった。またPPI=3、PNI=40をカットオフ値に設定すると、PPI3以上、PNI40未満で有意に生存日数が短く、CONUTでも栄養不良レベルが高いほど有意に生存日数が短かった。【結論】PPI、PNI、CONUTによる客観的評価は化学療法中止のタイミングについてひとつの指標となる。

  • 篠原 治征, 杉浦 正, 笹谷 賀子, 大澤 幸治, 堀川 直樹
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1334-1339
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】口腔ケアは特定の細菌をターゲットとはせず、口腔内細菌の絶対数を減少させることが重要であり、誤嚥性肺炎患者の治療と予防に有用とされる。誤嚥性肺炎患者の口腔内細菌叢と栄養状態の評価を行うことは肺炎治療の検討・予後予測の参考となる可能性を考え、その関連性について調査を行った。【対象および方法】平成25年4月~平成28年6月の間に当院に入院し口腔ケア依頼があった誤嚥性肺炎患者68例を対象に行った。口腔ケア介入時に口腔内細菌検査と栄養状態についてcontrolling nutritional status score(以下、CONUTと略)を用いて評価を行った。【結果】肺炎改善例と肺炎死亡例の比較ではKlebsiella.PEnterobacterCorynebacteriumの検出率について死亡例の方が有意に高率であった(p<0.05:χ2検定)。CONUTによる栄養状態評価については、肺炎死亡例では88%において高度栄養状態不良症例であり、肺炎改善例と肺炎死亡例では有意に栄養状態不良が高率であった(p<0.01:χ2検定)。また年齢別では80歳以上に栄養状態不良が多くみられた(p<0.05:χ2検定)。【結論】誤嚥性肺炎患者の口腔内細菌叢、栄養状態、予後について因果関係が認められた。様々な基礎疾患を有した高齢者の誤嚥性肺炎は致死的であることから継続した口腔ケアが必要であり、再発予防・治療方針の検討・予後予測の参考のため口腔衛生状態や口腔内の客観的な評価として細菌学的なモニターは重要と考える。

  • 岩本 千晶, 田河 みゆき, 面谷 幸子, 初田 泰敏, 廣谷 芳彦, 名徳 倫明
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1340-1347
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】大阪府下の病院薬剤部を対象に、薬剤師の病棟業務の状況や薬剤師の栄養管理への関与について検討した。【方法】アンケートは2012年と2014年に行い、調査内容は、薬剤師の病棟常駐業務の現状、注射剤混合調製業務の現状及びNST稼働状況とし、2012年と2014年を比較した。【結果】常勤薬剤師数は2012年で8.4人、2014年で13.1人であった。薬剤師が病棟常駐業務を行っている施設は、「全病棟で行っている」と回答した施設が2012年で24.1%であったのに対し2014年で31.4%と増加した。薬剤師が中心静脈栄養輸液の混合調製を「すべて行っている」「ほとんど行っている」と回答した施設は、2012年で30.3%、2014年では44.1%と有意に増加した。抗がん剤の混合調製業務では、47.3%から58.8%と増加傾向であった。栄養サポートチーム(以下、NSTと略)が稼動している施設は61.6%から76.4%と有意に増加した。【結論】今回の調査結果から、病棟薬剤業務実施加算の新設により薬剤師数が増加し、薬剤師の病棟での活躍の機会が増え、さらには薬剤師の栄養管理への意識の高まりにより薬剤師がNSTへ参画し、栄養管理やリスクマネジメント、チーム医療に大きく貢献しているということが伺えた。

  • 武政 葉子, 大村 健二, 長岡 亜由美, 有路 亜由美, 板橋 弘明, 山口 賢一郎, 山下 恵, 富田 文貞, 山野井 貴彦, 中熊 尊 ...
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1348-1352
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【対象と方法】75歳以上の肺炎で医療・介護関連肺炎症例と、誤嚥性肺炎の既往または、摂食嚥下障害を疑う情報を有する症例を除く56例を対象とした。退院時に嚥下障害が残存した群(14例)と残存しなかった群(42例)を比較した。【結果】残存群は非残存群より有意に絶食食数が多かった。両群間で言語聴覚士(speech therapist;以下、STと略)の介入時期に差はなかった。理学療法の開始時期は非残存群で有意に早く、理学療法士(physical therapist;PT)介入時のBarthel Index(以下、BIと略)は残存群で有意に低値であった。退院時のBIは両群で理学療法開始時と比較して有意に増加し、両群間にあったBIの差は消失した。【結論】高齢者肺炎の治療中に発生する嚥下障害には絶食の関与が考えられた。また、理学療法開始の遅延が嚥下障害の発生と遷延に関与していると考えられた。さらに、このような嚥下障害は理学療法のみでは改善しないと考えられた。高齢者肺炎の診療では、STによる早期の嚥下機能評価、適切な栄養管理、早期に開始する理学療法が必要である。

臨床経験
  • 杉山 彰英, 土岐 彰, 大澤 俊亮, 入江 理絵, 中山 智理, 中神 智和, 千葉 正博, 渡井 有, 鈴木 孝明
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1353-1356
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】重症心身障がい児(重症児)に対するバルーン型胃瘻ボタンを使用した腹腔鏡補助下胃瘻造設術(以下、本法と略)の有用性を検討した。【対象及び方法】当科で過去7年間に胃瘻造設術を行った重症児35例をもとに、開腹下に行った27例をOG群、本法を行った8例をLAG群とし、手術時間、術中・術後急性期合併症について比較検討した。【結果】手術時間の中央値はOG群で80分(55~140分)、LAG群で90分(65~110分)で両群間に有意差はなかった。術中合併症はOG群の1例で胃壁損傷を認め、LAG群の1例は腹腔内出血確認のための追加ポートを要した。術後急性期合併症はOG群で創感染を1例認めた。術中術後合併症の発生頻度に差はなかった。【結論】本法は開腹術と同等の時間でバルーン型胃瘻ボタンを直視下に小切開創で安全に挿入可能で、良好な位置にカテーテルの固定ができる。カテーテル挿入後の煩雑さを考えると、初回手術時のバルーン型胃瘻ボタン挿入術は重症児の胃瘻造設法として有用である。

  • 栗原 美香, 佐々木 雅也
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1357-1360
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    栄養管理を行う上で、必要栄養量と投与量の計算は非常に重要であるが、計算が煩雑な場合もある。スマートフォンは、アプリを追加することにより様々な情報処理機能を持たせることが可能である。今回、スマートフォンでもタブレット端末でも使用可能なアプリeasyNSTの企画、株式会社タス(TAS)と共同開発を行い、その有用性についても検討した。輸液と経腸栄養の模擬試験に対して、手計算とeasyNSTを使用した場合の正解率、計算時間を比較検討した。手計算とアプリでの計算による正解率は、静脈栄養では、特に水分、NPC/N比、ブドウ糖投与速度、計算処理時間においてeasyNSTの方が優れていた。経腸栄養では計算処理時間のみeasyNSTの方が有用であった。正解率・所要時間から本アプリの有用性が確認できた。NSTスタッフのみならず、NSTスタッフでない医師やメディカルスタッフにも広く活用できるツールと考えられた。

  • —CGMを用いた半固形状流動食による血糖変動改善効果の検討—
    高田 俊之, 三谷 加乃代, 河嶋 智子, 早川 みち子
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1361-1365
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    脳卒中のため摂食嚥下機能に障害を来し経腸栄養法が必要となった場合、糖尿病を有する例では標準栄養剤を使用すると血糖値が大きく変動しコントロール不良となることが多い。胃瘻にて経腸栄養中の糖尿病合併脳卒中患者に対し、標準栄養剤、low glycemic index(以下、低GIと略)栄養剤及び半固形状流動食を使用した場合の血糖変動を持続グルコースモニター(CGM)を用いて各々測定した。標準栄養剤使用時に大きく変動を認めた血糖値は、半固形状流動食では変動幅が著明に減少し、低GI栄養剤と同等以上に標準偏差値、最大血糖値、Mean Amplitude of Glycemic Excursions(MAGE)を低下させた。これは半固形状流動食により胃の蠕動運動が惹起され糖を含む栄養剤が緩やかに腸管に排出されたためと推測できる。今回の結果から半固形状流動食は糖尿病を有する嚥下障害合併脳卒中患者の血糖変動改善に有用と考えられた。

症例報告
  • 後町 杏子, 鷲澤 尚宏, 本間 栄
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1366-1368
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は22年前に胃癌に対して胃全摘、Roux-en-Y再建の既往がある78歳の男性で、誤嚥性肺炎のため入院した。上部消化管内視鏡検査(Upper Endoscopy;UE)と造影検査にて、食道空腸吻合部は横隔膜上の縦隔に位置し、空腸盲端の拡張と肛門側の空腸入口部の狭窄を認め、食道へ逆流しやすい形状であることが確認された。呼吸機能が不良で手術は危険性が高いため、経皮経食道的胃管挿入術(Percutaneous Trans-Esophageal Gastro-tubing;以下、PTEGと略)を行い、内視鏡ガイドでカテーテル先端を狭窄部肛門側の空腸に留置し、経管栄養を開始した。その後、肺炎は再燃せず、活動性と筋力が回復した。胃全摘後の繰り返す誤嚥性肺炎の原因として、再建空腸肛門側の狭窄による通過障害で起きた食物や唾液の逆流が考えられ、外科的治療を含む治療法の適応が検討されたが、PTEGの手技を用いてカテーテル先端を空腸に留置した経管栄養が選択され、これによって肺炎の再発を予防しながら全身状態を改善することに成功した。

  • ~嚥下困難をきたす疾患のピットフォール~
    阿久澤 暢洋
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1369-1371
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は61歳、男性。生来健康で特記すべき疾患の既往なし。昼食中に突発的な胸部苦悶感と嚥下障害が出現したため受診。急性冠症候群を疑い、緊急冠動脈造影を行ったが冠動脈に病変なし。頸部~胸部単純CTでは咽頭後壁左外側にAir Densityを含む単房性の構造物を認めた。食道造影検査では第6頸椎の高さに一致して直径1cmの食道憩室の所見を認め、Zenker憩室の確定診断に至った。入院後、症状は自然に改善し、経口摂取に問題がないことを確認したうえで本院退院となった。Zenker憩室は食道入口部付近にみられる圧出性の憩室であり、高齢男性に多い。上部食道括約部の弛緩障害などに伴う下部咽頭内圧の上昇により発生すると考えられている。確定診断には食道造影が有用である。主症状は嚥下障害であり、内径1cm未満の小憩室でも固形物の嚥下障害を呈することが多い。高齢者の嚥下障害の原因としても留意すべき疾患である。

  • 吉村 光太郎, 林 詩織, 長尾 健司, 酒向 幸, 佐藤 恵彦, 亀山 博子, 大西 祥代, 齋藤 雅也
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1372-1374
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は42歳女性.29歳時骨髄異形成症候群のため同種骨髄移植.40歳時より呼吸困難出現.胸部CT上両側肺野容積減少,胸膜下に浸潤影を認めたが蜂巣肺は認めず.臨床経過,特徴的な身体所見,画像所見より特発性上葉限局型肺線維症と考えられた.呼吸不全進行のため人工呼吸管理開始後内視鏡的胃瘻造設術施行.胃瘻造設後順調な経腸栄養継続が可能となり,長期間の経腸栄養,呼吸リハビリテーション,人工呼吸管理を継続した.他院呼吸器外科へ相談後脳死肺移植登録し,肺移植待機とするも2年4ヶ月後に呼吸不全死した.特発性上葉限局型肺線維症は稀な症例であり,内視鏡的胃瘻造設術が長期の経腸栄養管理に有用であった貴重な症例と思われ報告した.

その他
  • 一丸 智美, 近藤 匡, 雨海 照祥
    2017 年 32 巻 4 号 p. 1375-1379
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    小腸不全は「健康、成長に必要な栄養素、体液、電解質のバランスを維持できない」病態と定義され、短腸症候群はその原因のひとつである。本論文では、小腸広範切除術・空腸瘻造設術後の経口摂取再開後に重度の低ナトリウム血症を呈した症例に対する治療として、電解質濃度を個別に調整する「カスタマイズ輸液」、および、市販輸液製剤で最もナトリウム濃度が高い「生理食塩水」の投与の妥当性をディベート形式で議論した。カスタマイズ輸液は個々の症例に応じてカリウム、マグネシウムなども調整できるという利点があるが、使用する薬剤やミキシングの労力が少ないという面では生理食塩水の方が勝っており、どちらを選択すべきか簡単に結論づけることはできない。ディベートの目的は、どちらが正解か判定をくだすことではなく対立する立場双方のエビデンスを偏りなく公平に評価し共有することである。このディベート形式が、今後の栄養科学のさらなる進展に寄与すると期待する。

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