抄録
症例はアルコール性およびB型肝硬変(Child-Pugh grade B)の60歳代男性で, 7年前に膀胱癌にて膀胱全摘および右下腹部に回腸導管造設の既往がある. 門脈圧亢進症による利尿剤不耐性の難治性腹水を認め, 回腸導管に生じたストマ静脈瘤出血を繰り返していた. 大量出血によりヘモグロビン値は5.0 g/dlと著明に低下したため外科的に静脈瘤を縫縮し, 一時的に止血が得られた. しかし, 再出血が危惧され, 難治性腹水の治療と回腸導管ストマ静脈瘤の出血予防のため経頸静脈的門脈大循環短絡術(transjugular intrahepatic porto-systemic shunt ; TIPS)を施行した. 門脈大循環圧較差(portosystemic pressure gradient ; PSG)は17 mmHgから11 mmHgに低下し, 腹水の改善により体重は61 kgから56 kgに減少した. 回腸導管ストマ静脈瘤は消失し, その後, 腹水の貯留, ストマ静脈瘤出血は認められていない. TIPSは本症例のように門脈圧亢進症を合併した難治性腹水および回腸導管のストマ静脈瘤出血に対する有効な治療と考えられる.