抄録
食道胃静脈瘤の発症には, 門脈系全体としての圧亢進に伴う逆行遠肝性副血行路, およびとくに下部食道胃噴門部領域における消化管壁内粘膜下動静脈吻合開大増加に伴う局所静脈系圧亢進状態, の両病態が直接要因として関与している.したがって静脈瘤に対する治療は, これら両病態の直接解消除去, もしくは局所静脈系圧亢進状態の大静脈系へのドレナージのいずれかが原則となる.教室で考案した粘膜保存胃離断術は, このような静脈瘤の発症病態・治療原則に合致した合理的な経腹的直達手術である.本術式施行例の術後遠隔成績を基礎疾患別に検討した結果, 肝機能良好な特発性門脈圧亢進症, 肝外門脈閉塞症などの遠隔成績はきわめて良好であったが, 肝硬変症では静脈瘤出血, 脾機能亢進症状に対する制御は長期間良好に保たれていたものの, 遠隔時の肝癌・肝不全・門脈圧亢進症性胃症などの発症が少なくなく, 重要な問題点と考えられた.