2017 年 54 巻 5 号 p. 403-407
小児の急性リンパ性白血病 (ALL) の治療に必須のmethotrexate (MTX) 大量療法や髄注は,知的な能力に影響を及ぼしうる長期的な神経毒性(白質脳症を含む)が懸念される.今回,MTX大量療法を行ったALL標準リスクの診断時年齢4歳女児の知的な能力について縦断的な前向き調査を行った.WISC-IV知能検査を1年ごとに計4回実施した.対象児は,ALL発症前までは成長発達に問題はなく,標準的な社会経済的環境にある両親と生活してきた.診断後,対象児はJACLS ALL-02 SRプロトコールに従って, HD-MTX 3 g/m2を2コースとIT MTXを12回行う治療を受けた.この間, 寛解導入療法後に1回,その後1年ごとに3回,計4回のWISC-IV知能検査を行った.その結果,ワーキングメモリーの得点は軽微に低下したが,推論を含む流動性能力と知識を積み重ねていく結晶性能力は維持された.また,すべての検査において全体的な知的能力は標準域にあった.したがって,大量MTX療法後の3年間において,本症例では認知機能障害はないと判断された.これらの研究結果を検証するためのさらなる前向き研究の蓄積が必要である.