日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
Print ISSN : 2187-011X
ISSN-L : 2187-011X
シンポジウム4: 凝固異常症のupdate
血友病に対する遺伝子治療・ゲノム編集治療の進歩
柏倉 裕志大森 司
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 57 巻 3 号 p. 220-226

詳細
抄録

血友病はX連鎖型の遺伝性出血性疾患であり,F8(血友病A)あるいはF9(血友病B)遺伝子の変異が原因となる.重症患者では,関節内や筋肉内の出血を予防するために,濃縮凝固因子製剤の定期的投与が必要となる.血友病は単一遺伝子による遺伝性疾患であること,治療効果の評価が容易に可能であることなどから,遺伝子治療の良い標的疾患と考えられている.現在,複数の血友病遺伝子治療臨床試験が行われ,その多くがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて,凝固因子遺伝子を肝臓へ遺伝子導入している.最近の臨床試験の結果では,一回の投与で長期にわたり凝固因子レベルが上昇し,出血率,凝固因子製剤の使用量,生活の質(QOL)を改善させている.一方,AAVベクターによる遺伝子治療は,細胞分裂により治療効果が減弱するため,対象は成人患者に限られる.そこで,小児期からの永続的な効果が期待される根本治療として,染色体DNAにアプローチするゲノム編集技術に大きな関心が寄せられている.実際に,AAVベクターを利用して,ゲノム編集ツールを肝臓に届け,肝細胞だけをゲノム編集する血友病治療も治験が進んでいる.近い将来,血友病に対する遺伝子治療を一般診療で進めていくには,長期的な有効性・安全性の観察に加え,高額な医療費に対する議論が必須である.

著者関連情報
© 2020 日本小児血液・がん学会
前の記事 次の記事
feedback
Top