日本小児血液・がん学会雑誌
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要望演題2: 妊孕性温存
世界情勢から見る日本の小児がんの妊孕性温存の方向性
京野 廣一中村 祐介宮本 若葉石井 実佳奥山 紀之橋本 朋子
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2021 年 58 巻 2 号 p. 118-123

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抄録

世界では小児・AYA世代のがんの妊孕性温存(FP)として1997年頃より卵巣組織凍結(OTC)が開始された.小児がんは進行が早いため,短期間で実施できるOTCが選択され,大規模施設では小児がん症例が全OTCの12–18%を占める.一方,日本の小児がん拠点病院は15か所あるが,OTCに関するネットワークは未だ整備段階である.この解決策として,長期間,安全かつ高品質なOTC実績を持つデンマークやFertiPROTEKTの形を踏襲した“Centralized system”が有益と考える.システムの実施には,小児外科医・小児科医・生殖補助医療専門医らが密な連携を取り,患者の意思決定支援やOTCの術後管理を円滑に実施できる環境整備が不可欠となる.また,卵巣組織の保存に関しても,日本においては大きな問題がある.小児期にOTCを実施した場合,その凍結期間は10年を超える場合も少なくない.日本は地震や水害といった天災の多い地域であり,それらに対するリスクマネジメントは必須となる.当院では,OTC実施のための保管機器や専門家不在の施設に代わり,全国のがん患者のOTCを可能にするための搬送システムを構築し,東京に卵巣組織凍結保存センター(HOPE)を立ち上げた.少子高齢化に直面する我が国にとって,小児がん患者のためのFPは重要であり,妊孕性温存に関する積極的な啓発ならびに支援体制づくりが求められる.本稿では世界のOTC実施状況と比較しながら,国内でのOTCに関する課題について言及する.

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© 2021 日本小児血液・がん学会
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