2023 年 60 巻 5 号 p. 297-300
腹部悪性腫瘍に対する粒子線治療は,腫瘍に近接する消化管の放射線障害が大きな問題となり,根治的線量の照射が困難な場合がある.この治療限界を克服すべく,神戸大学では粒子線照射前の準備として開腹下に腫瘍と消化管の間に延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)製シート(以下,ePTFE製シート)を挿入するスペーサー留置術を考案し,2006年8月から2022年3月までに腹部悪性腫瘍200例以上に対して施行し良好な治療成績を報告してきた.さらに不織布型の吸収性スペーサーの開発に取り組み,放射線治療用吸収性組織スペーサー「ネスキープ®」の上市に至り,2019年6月から2022年3月までに50例以上のネスキープ留置術を施行した.ネスキープ®の長所はePTFE製シートに比して素材が柔軟であり,離断・連結が容易で腫瘍に即した形状に作成して腫瘍と臓器の間に固定しやすいことである.また吸収性素材であるため消化管合併切除・感染症例などに対してもスペーサー留置術の適応が拡大される可能性がある.ネスキープ®留置術における手術手技の取り組みを供覧し,小児領域への応用も含めて吸収性スペーサー留置術の今後の課題について報告する.