2021 年 12 巻 5 号 p. 686-693
はじめに:高齢者に多い慢性腰痛ではサルコペニアの頻度が高いことが報告されているが,筋減少と慢性疼痛を関連づける医学的根拠は乏しく,老化における腰痛発生の機序は未解明である.高齢者慢性腰痛患者の骨格筋を含む身体組成と脊椎矢状面アライメントを評価した.
対象と方法:高齢慢性腰痛患者195例(平均79.1歳)を対象に,血液生化学,ビタミンD(VD),DXA法による体組成測定,脊椎アライメント評価,MRIで体幹筋面積を計測し,慢性腰痛のない高齢者対照群と年齢,性別を調整した傾向スコアマッチングにより比較した.
結果:慢性腰痛では有意にVD低値,赤血球容積分布幅(RDW)高値であり,四肢骨格筋量の低値,脂肪量の高値,体幹筋量の低値を認めた.椎間板及び終板変性では両群間で有意差は認めず,脊椎アライメントでは慢性腰痛で腰椎前弯減少,矢状面バランス異常,骨盤脊椎不均衡を認めた.
結語:高齢者慢性腰痛では老化の指標であるRDWが高値であった.慢性腰痛ではVD欠乏を伴うことが多く疼痛閾値に影響を与えていると考えられ,加齢に伴う骨格筋量の減少と脊椎バランス異常が腰痛に関連している可能性がある.