2021 年 12 巻 6 号 p. 800-807
慢性疼痛患者は年齢とともに増加し,高齢者では腰痛が最も多い.加齢に伴い細胞老化することでIL-6やIL-1などの炎症性サイトカインが分泌され,慢性炎症が惹起される.この病態については老化と炎症の関連に着目した“inflammaging”という提唱がなされている.運動器においては脂肪組織での炎症が脂肪の増加を惹起し,慢性炎症が骨格筋に及ぶことで骨格筋の減少であるサルコペニアを誘発する.近年報告されているサルコペニアと腰痛の関連はこのような炎症を背景とした老化機序が考えられる.サルコペニアでは四肢に次いで体幹の筋量減少が生じるが,これは脊椎矢状面バランスの悪化を来し腰痛の原因となりうる.一方で,加齢に伴い脊髄後角や末梢神経での病理学的変化も高齢者の疼痛感受性に悪影響を与える.老化機序と慢性疼痛の発現は密接な関係があると考えられ,臨床的に有用な老化マーカーの確立が求められる.我々は老化に伴う脂肪増加と筋量減少がリンクして起こることに着目し,下肢における骨格筋量と脂肪量の比が慢性疼痛発生と関連があることを示した.老化に伴う慢性疼痛の分子メカニズムが解明されれば有効な治療法の開発が期待される.