抄録
認知症を合併したがん患者の苦痛評価は,困難な場合がある.われわれは,認知症合併進行皮膚がん患者の脳梗塞が診断されないまま転院を繰り返した1例を経験した.患者は85歳,女性.2009年頃より認知障害を認めていた.2013年頃より左頬部皮膚腫瘍の増大を認め,2014年6月に皮膚腫瘍,嚥下困難のため近医に入院した.進行皮膚がん,認知症の診断で他院に転院したが,症状はすべて皮膚がんと認知症によるものと診断された.発症日+36日に当院に転院し,頭部CTおよびMRI検査で亜急性期脳梗塞と診断された.本例では,認知症と進行がんが,家族と医療者による脳梗塞症状の認識を阻害したと推察され,詳細な問診が検査実施の契機になった.脳梗塞の診断は,身体症状の緩和に無効だったが,家族の病状に対する理解や予後を実感したケアへの参加など,受容や心理的な充足感に有効と推察された.