抄録
悪性腫瘍に伴い血液凝固亢進をきたし血栓・塞栓症を生じる病態は,Trousseau症候群として知られる.進行再発直腸がんのため緩和ケア病棟入院中に脳梗塞を発症し,抗凝固療法を行った1例を報告する.症例は50歳,女性.直腸がん術後で肺転移と多発骨転移あり.疼痛増強にて在宅療養が困難となり,緩和ケア病棟へ入院となった.薬物治療と放射線照射により疼痛は緩和され退院となるが,肺転移巣の進行にて再入院,療養していたところ,部分的視野欠損,失語症が相次いで出現した.MRIにて多発脳梗塞を認め,血液検査ではDIC(播種性血管内凝固症候群)を伴っていたためTrousseau症候群と診断した.ヘパリンによる抗凝固療法を開始したところ,失語症の改善がみられた.治療に伴う有害事象はなかった.終末期という理由だけで一律に本症への抗凝固療法の適応なしと判断せず,予後や全身状態以外に治療が患者にもたらす意義や安全性などを個々の症例で検討する必要がある.