周産期学シンポジウム抄録集
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第15回
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シンポジウム A:原因・病態
新生児遷延性肺高血圧症に関連した羊胎仔肺組織における子宮内長期低酸索ストレスの影響
室月 淳
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p. 51-57

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抄録

 はじめに

 新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension of the neonate;PPHN)は,なんらかの原因により出生後も高い肺血管抵抗が持続し,卵円孔や動脈管などを介する右左短絡により低酸素血症を呈する疾患である。通常,正常新生児においては,出生を契機とする肺血管抵抗の急激な低下と肺血流量の増加により肺循環が確立する。PPHNは,その胎児から新生児への移行期におけるなんらかの適応不全と解される。新生児仮死や胎便吸引症候群などが引き金となる場合もあるが,多くは明らかな誘因がなくて発症しており,少なくともその一部には子宮内での慢性ストレスの関与が疑われている。その根拠として,PPHNで死亡した新生児の肺組織に,出生時にすでに病理学的変化が生じていること1, 2),動物実験において,妊娠ラットの母体低酸素により胎仔肺組織の血管壁の肥厚が生じる3)ことなどがあげられる。

 Rudolph4)は,PPHN発症の背景にある病態因子として,①maladaptation, ②maldevelopment,③hypoplasiaの3つを指摘した。出生直後より児の肺血管は拡張して肺血流を増加させるが,その機序にはプロスタサイクリンや一酸化窒素(nitric oxide;NO)が関与していることが知られている。Maladaptationとは,なんらかの原因により肺血管が攣縮したり,あるいは出生時の生理的拡張が阻害されたりすることを指す。Maldevelopmentは,胎児期の肺血管の発達になんらかの異常が生じることで,出生前に生じた肺動脈の筋性肥厚などがあげられる。またPPHNは,先天性横隔膜ヘルニアや羊水過少に合併する肺の低形成(hypoplasia)の症例にも好発する。この場合,肺全体の血管床が少ないため血管抵抗が高くなるのが主たる病態である。

 この研究では,子宮内長期低酸素ストレスと出生後の肺高血圧発症との関連を調べるため,羊胎仔実験モデルを用いた。上で述べた3つの病態メカニズムのそれぞれについて以下の仮説を立て,これらの仮説を検証することを本研究の目的とした。

 ①子宮内長期低酸素により,胎児の肺組織中のNOの産生が低下する。

 ②子宮内長期低酸素により,胎児の肺組織中の血管壁の肥厚が生じる。

 ③子宮内長期低酸素により,胎仔の肺組織の発育不全が生じる。

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© 1997 日本周産期・新生児医学会
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