周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第15回
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シンポジウム B:治療
新生児遷延性肺高血圧症に対するECMOの効果
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p. 87-98

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抄録

 はじめに

 子宮内において胎児の肺血管抵抗は高く,肺高血圧の状態にあり,その肺血流量は妊娠満期でも両心室拍出量の10%にしか満たない1)。出生後,肺呼吸の開始によりその肺血管抵抗は急速に低下し,肺動脈圧の低下とその血流量の増加が起こる。しかしながら,生後24時間でも肺血管抵抗はまだ体血管抵抗の約半分で,成人レベルの肺血管抵抗に達するには6週間ほど要するといわれている2)。また新生児期の肺血管は,成人のそれとは異なり不安定であり,周産期における低酸素症や肺病変により,容易に収縮し肺動脈高血圧の状態になりやすい特徴がある。近年,肺サーファクタント補充療法(S-TA補充療法)3)が一般臨床に普及し,肺サーファクタント欠乏に起因する呼吸循環障害症例の管理は飛躍的に向上し,その予後も改善されてきている。

 一方,S-TA補充療法により,肺胞虚脱に起因する肺内シャントの急速な解消が可能となり,肺内シャント以外の左右シャント(卵円孔および動脈管)が存在する病態,いわゆる胎児循環遺残症(persistent fetal circulation;PFC)が,以前にもまして明確に認識されるようになり,その原因として重要な新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension of the neonate;PPHN)が注目されてきている。PPHNの治療として,これまで種々の血管拡張薬や高頻度振動換気法による過換気療法などが試みられてきているが,満足のいく治療効果は得られていないのが現状であり,近年では,血管拡張作用をもつ一酸化窒素(nitric oxide;NO)吸入療法4)の効果が注目されている。

 一方,extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)は肺ガス交換および循環を膜型人工肺で補助し,重症呼吸不全症例の救命をめざす治療であり,血管拡張だけをめざす治療法ではなく,最近では,体外循環による生命維持法という意味を込めてextracorporeal life support5)ともよばれている。

 ECMOは1976年,Bartlettらが胎便吸引症候群(MAS)の重症呼吸不全症例に対し施行し,世界で初めての救命例を報告6)して以来,米国を中心に全世界に普及してきた。

 近年,ECMO施行症例の救命率も上昇し,その装置および管理法が進歩したためECMOの適応も拡大し,単に救命という目的だけでなく,過度の人工換気療法による肺障害などの後障害の軽減を目的に施行されるようにもなってきている。そこで今回,PPHNの治療におけるECMOの効果について検討を加えたので,当センターでのPPHNの定義とともに報告する。

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© 1997 日本周産期・新生児医学会
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