周産期学シンポジウム抄録集
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第23回
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シンポジウム午前の部
妊娠中の低栄養は胎盤血管機能を変化させる
木村 芳孝
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p. 45-49

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抄録

 はじめに

 母体の栄養状態は,胎児の発育に大きく影響を与える重要な因子と考えられる。低栄養では二分脊椎や子宮内発育不全などの頻度が上がり,器官形成や発育などに病理的障害を残すことがある。胎児の環境因子としての母体の栄養状態は重要である。これに加え,近年,母体の低栄養が,胎生期の胎児だけではなく出生以後の長期にわたりその爪あとを残し,成人期において高血圧や心血管疾患,糖尿病などの成人病の発症に大きくかかわることが広く知られるようになってきた(fetal programming)。低栄養被曝の時期によってその後発症する疾患の種類が異なり,妊娠初期では高血圧や心血管疾患の発症が,妊娠中期から後期の発症では肥満,糖尿病などのインスリン抵抗性病態の発生が報告されている1)

 上記のように低栄養が胎児に与える影響は多岐にわたり複雑である。妊娠初期の低栄養に関連して起こるものでは,病態は次のように考えられている。胎児期の低栄養などの侵襲がステロイドの分泌を介し胎児のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を動かし,アンギオテンシンII過剰分泌や,そのレセプターの反応異常を生じさせる。これらのレセプターの機能異常が代償的に新たなレセプターの機能異常を生みながら,血管新生やそれに関連した腎臓の糸球体の数の異常,心筋肥大など心筋の発生異常を胎児期で発症させる。これらの血管系を中心としたホルモンレセプターの反応性の異常が,隠れた爪あととなり,胎内で獲得されたストレスに対する易反応性とともに,後の成人期の高血圧・心血管疾患の生活習慣病の発症につながると考えられている2, 4)(図1)。

 これに対し,母体との直接相互作用を担う胎盤は,低栄養の影響をどのように受けているのだろうか? 胎盤は妊娠中期までに形成を終え,その後の胎児の発育に重大な役割を果たしている。低栄養被曝に関する胎盤の影響は,その後の胎児の成長にきわめて重要であると考えられる。また,胎児と同じ環境にあった胎盤の状態は,胎児の状態を反映すると考えられる。胎盤の主な臓器は血管である。ここでは,羊胎仔を用い,低栄養被曝が胎盤の血管の機能にどのような影響を及ぼすかを検討したので報告する。

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© 2005 日本周産期・新生児医学会
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