周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
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第23回
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
序文
  • 名取 道也
    p. 3
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
    会議録・要旨集 フリー

     平成17年1月21,22日の両日,第23回日本周産期・新生児医学会周産期シンポジウムが開催されました。これは旧日本新生児学会と旧日本周産期学会が合同して最初のシンポジウムであり,その意味では第1回の日本周産期・新生児医学会周産期シンポジウムでもありました。

     お世話をさせていただ<側としては,両学会が合同して会員数が10倍になったことより,今までの周産期シンポジウムの参加者数がどのように変化するかが,第一の気がかりでありました。しかしふたを開けてみると参加者数約400名と,過去の本シンポジウム参加者数のうち多い人数,の範囲でありました。

     今回のテーマは「生活,環境,薬剤などの母児に及ぼす影響」であり,午前午後各6演題合計12演題が発表されました。21日のプレコングレスでは「周産期脳内の人工化学物質を原因とするLD, ADHD, 高機能自閉症など脳の発達障害」と題して,東京都神経科学総合研究所/戦略的創造研究推進事業(CREST)主任,黒田洋一郎氏に講演をいただきました。氏には最近のトピックスである高次脳機能障害と環境物質に関する最新の知見を動物実験の結果から臨床における敷衍まで,幅広くまたわかりやすくレクチャーしていただきました。

     22日のシンポジウムでは産科学や新生児学を専門とする演者に加えて,特に午前のセッションでは,公衆衛生学など他領域の専門家を多くシンポジストに迎えて,活発な討論が行われました。両学会が合同して最初の周産期シンポジウムのテーマが,これから学会が国内外の関連領域との交流を深め,社会に向けての情報発信を行っていくとの観点からは良いテーマであったと喜んでおります。

     来年は田村会長のお世話で,第24回が大宮で開催されます。周産期専門医制度もまずは新生児側からスタートし,来年度には産科側のスタートが切られる予定です。いま医療の世界では専門教育が大切な課題であり,恐らくはこのシンポジウムも年々参加者数が増えて行くことと思います。本学会にとっても,本シンポジウムにとっても,新たな出発の第一歩の記録としての本書であり,また本書に記された皆様の研究活動や医療活動が多くの患者に役立つことを祈念しております。

     演者の方々を始め,今回の会の運営にご協力をいただいた皆様に,また本書の出版にご尽力いただいた方々に心からの感謝を申し上げます。

シンポジウム午前の部
  • 河田 興, 河田 真由美, 小西 行彦, 久保井 徹, 岩城 琢磨, 大久保 賢介, 日下 隆, 磯部 健一, 伊藤 進, 柳原 敏宏, 花 ...
    p. 11-17
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     カフェインは医薬品のみならず日常摂取される種々の物質に含有され,妊婦が日常的に摂取する1)。薬物のなかではカフェインは母体を介して胎児への影響を多く与えている。したがって,他の薬物に比べ,母体を介したカフェインの胎児ヘの危険性や影響については比較的詳細な報告が存在する2, 3)。諸外国では母体カフェイン摂取量や胎児への曝露量についての詳細な研究4)があるものの,食習慣・生活習慣の異なる本邦における母体カフェイン摂取量や胎児曝露量に関する検討は報告がほとんどなく,本邦においても詳細な検討が必要である。

     さらに,胎内で曝露されたカフェインの新生児ヘ及ぼす影響については諸外国においても十分な検討はなされていない5, 6)。本邦では諸外国に比ベカフェイン以外の喫煙や飲酒などの影響が比較的小さいと考えられ,カフェイン単独の影響を観察するのに適した環境がある。

     今回は,香川大学医学部附属病院で出生した新生児およびその母親について,カフェインおよびその代謝物のジメチルキサンチン(Theophylline, Paraxanthine, Theobromine)血中濃度の測定とともに,新生児ブラゼルトン行動評価を行い,胎内で曝露されたカフェインの及ぼす新生児への影響について検討し報告する。

  • 仲井 邦彦, 堺 武男, 岡村 州博, 細川 徹, 村田 勝敬, 佐藤 洋
    p. 19-26
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     要旨

     ダイオキシン類,PCBs,メチル水銀など環境由来の化学物質による周産期曝露に起因した健康影響が危惧されている。健康影響が最も危惧される集団は胎児と新生児であり,その健康リスクを評価するため,周産期における化学物質曝露をモニタリングするとともに,出生児の成長,特に認知行動面の発達を追跡する前向きコホート調査を計画し,599組の新生児―母親の登録を得て疫学調査を進めている。まだ児の発達と化学物質曝露の関係について解析途中であるが,母親毛髪総水銀,臍帯血および母体血甲状腺ホルモン関連指標の分析を終えるとともに,臍帯血ダイオキシン類およびPCBsについて高分解能ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC/MS)を用いた解析を実施中である。本コホート調査の概要を紹介するとともに,化学分析の状況についてまとめ,PCB曝露のレベルについて海外で行われたコホート調査の結果との比較を試みた。

  • ―尿道下裂・停留精巣など先天異常と乳幼児の神経発達に関する疫学研究
    岸 玲子, 佐田 文宏, 西條 泰明, 水上 尚典, 櫻木 範明, 遠藤 俊明, 石川 睦男
    p. 27-33
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     PCB, ダイオキシン類など内分泌かく乱化学物質は,催奇形性と神経発達など次世代影響が動物実験では注目される。しかし実際に人でのリスク評価がなされているものは少ない。小児への影響は,①尿道下裂・停留精巣など泌尿生殖器系の先天異常,②乳幼児の神経発達,③母と子の甲状腺機能,④アレルギー性疾患等が着目されている。著者らは現在,北海道で小児を対象に2つの前向き研究を進めているので,本稿は現時点までの予備的報告をするとともに,諸外国の関連研究を概説する。

  • 髙井 泰, 生月 弓子, 堤 治, 亀井 良政, 竹内 亨, 武谷 雄二
    p. 35-43
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     要旨

     我々人類は内分泌撹乱物質に曝露されているが,その健康影響,特に生殖機能や胎児・次世代への影響については不明の点が多い。ダイオキシン類は,ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PCDDs), ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs), コプラナーPCB(Co-PCBs)の広義の総称で,動物実験では微量でも生殖・発生異常を生じることが報告されている。近年では,胎児の甲状腺機能を撹乱して出生後の精神神経系の発達に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

     我々は,分娩時に得られた母体血,臍帯血,羊水を対象として,ダイオキシン類濃度(PCDDs, PCDFs, Co-PCBs)を高分解能GC-MS法により測定し,母児環境の汚染状況を評価し,物質ごとの体内・胎内動態を検討した。その結果,母体血中Co-PCBs濃度と母体年齢の間に有意な正の相関を認めた(P=0.0076)。検体総重量あたりの濃度で比較すると,母体血では,臍帯血,羊水に比べてすべてのダイオキシン類濃度が有意に高かった(いずれもP<0.0001)。しかしながら脂肪重量あたりに換算すると,羊水中PCDFs濃度が母体血,臍帯血に比べて有意に高かった(P=0.0056)。母児のダイオキシン類曝露状況の母児相関を検討したところ,PCDDs濃度,Co-PCBs,総ダイオキシン類濃度において,母体血・臍帯血間に有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0155, P<0.0001, P=0.0253)。母児の甲状腺関連ホルモンと,母体血,臍帯血,羊水中の各種ダイオキシン類濃度との相関の有無を検討したところ,母体血PCDFs濃度と,臍帯血遊離トリヨードサイロニンおよび遊離サイロキシンとの間に有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0066 ; P=0.0312)。

     ダイオキシン類(PCDDs, Co-PCBs)において母体血と臍帯血中濃度に有意な母児間の相関がみられ,経胎盤的な内分泌撹乱物質移行の実態が確認された。また,羊水中脂肪成分にダイオキシン類(PCDFs)が蓄積することが明らかとなった。脂肪親和性の高いダイオキシン類は母体から胎児への脂肪酸輸送に伴って経胎盤的に胎児に移行すると考えられているが,今回の我々の報告はこれを支持するものと考えられた。母体のダイオキシン類(PCDFs)曝露と胎児の甲状腺ホルモン値に有意な正の相関を認めたことは,ダイオキシン類が次世代の発育に及ぽす影響を検討するうえで考慮すべき知見であると思われた。

  • 木村 芳孝
    p. 45-49
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     母体の栄養状態は,胎児の発育に大きく影響を与える重要な因子と考えられる。低栄養では二分脊椎や子宮内発育不全などの頻度が上がり,器官形成や発育などに病理的障害を残すことがある。胎児の環境因子としての母体の栄養状態は重要である。これに加え,近年,母体の低栄養が,胎生期の胎児だけではなく出生以後の長期にわたりその爪あとを残し,成人期において高血圧や心血管疾患,糖尿病などの成人病の発症に大きくかかわることが広く知られるようになってきた(fetal programming)。低栄養被曝の時期によってその後発症する疾患の種類が異なり,妊娠初期では高血圧や心血管疾患の発症が,妊娠中期から後期の発症では肥満,糖尿病などのインスリン抵抗性病態の発生が報告されている1)

     上記のように低栄養が胎児に与える影響は多岐にわたり複雑である。妊娠初期の低栄養に関連して起こるものでは,病態は次のように考えられている。胎児期の低栄養などの侵襲がステロイドの分泌を介し胎児のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を動かし,アンギオテンシンII過剰分泌や,そのレセプターの反応異常を生じさせる。これらのレセプターの機能異常が代償的に新たなレセプターの機能異常を生みながら,血管新生やそれに関連した腎臓の糸球体の数の異常,心筋肥大など心筋の発生異常を胎児期で発症させる。これらの血管系を中心としたホルモンレセプターの反応性の異常が,隠れた爪あととなり,胎内で獲得されたストレスに対する易反応性とともに,後の成人期の高血圧・心血管疾患の生活習慣病の発症につながると考えられている2, 4)(図1)。

     これに対し,母体との直接相互作用を担う胎盤は,低栄養の影響をどのように受けているのだろうか? 胎盤は妊娠中期までに形成を終え,その後の胎児の発育に重大な役割を果たしている。低栄養被曝に関する胎盤の影響は,その後の胎児の成長にきわめて重要であると考えられる。また,胎児と同じ環境にあった胎盤の状態は,胎児の状態を反映すると考えられる。胎盤の主な臓器は血管である。ここでは,羊胎仔を用い,低栄養被曝が胎盤の血管の機能にどのような影響を及ぼすかを検討したので報告する。

  • 由良 茂夫, 伊東 宏晃, 佐川 典正, 角井 和代, 竹村 真紀, 川村 真, 藤井 信吾
    p. 51-56
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     目的

     近年疫学的研究から,母体低栄養や妊娠合併症によるIUGR(Intrauterin growth restriction)児が,出生後に急速に体重増加するCatch up期を経て成人後に肥満や糖・脂質代謝異常,高血圧などの生活習慣病を高率に発症し,最終的に心血管障害による死亡率が上昇することが報告され,Developmental Origins of Health and Diseaseという概念が提唱されている(図1)1)。つまり,胎生期の低栄養などの環境要因がfetal programmingとしてなんらかの変化を引き起こし,それが成人後に疾患を発症しやすくなる傾向をもたらすというものである1)。実際に,IUGR児の多くが新生児期にCatch up growthとよばれる急速な体重増加を示し,成人後に肥満を高頻度に発症するとともに2),種々の生活習慣病の高リスク群となる3)。しかしながら,その具体的な機序の内容はほとんど解明されていない4)。一方,生活習慣病から心血管障害の発症にいたる機序として,metabolic syndrome(代謝異常症候群)ないし,deadly quartet(死の四重奏)とよばれる概念が想定されている(図2)5)。すなわち,肥満や耐糖能障害,高脂血症,高血圧は一個体に集積しやすく,相互に増幅しあうことによって最終的に心血管障害のハイリスク群となる,とする考え方である。これまでその発症は遺伝因子や生活習慣から説明されてきたが,近年の疫学的研究から新たに胎生期の低栄養が関与する可能性が注目されることとなった(図2)。

     生活習慣病の発症や進行にとって,肥満が非常に大きな問題として強調されているが,これは脂肪細胞が従来考えられていたような,単にエネルギーを貯蔵するだけの受動的な細胞ではなく,アディポサイトカインとよばれる多数の生理活性因子を産生している能動的な細胞であることが判明してきたこと,これらの因子が体重や糖・脂質代謝,血圧などさまざまな生体のホメオスターシスを調節し,生活習慣病の病態形成にも直接関与していること,脂肪組織におけるエネルギーの過剰蓄積である肥満の病態形成にはアディポサイトカインの産生や感受性の異常が深く関与していることなどが原因である6)。アディポサイトカインのうち,きわめて強い生理作用を示すレプチンは視床下部を介して摂食抑制,エネルギー消費の増加をもたらし抗肥満作用を発揮する7)(図3)。さらにレプチンは血圧上昇作用,糖脂質代謝調節作用も示すことから,肥満に起因する生活習慣病の発症,病態にも深く関与していると推定される。実際に,レプチンが遺伝的に欠損しているマウスやヒトでは体重減少作用が欠如しているため,著明な肥満を呈している8)。ところが,ヒトも含めレプチン遺伝子に異常を認めない一般の動物では,血中レプチン濃度は体脂肪量と強い正の相関を示し,肥満すると血中レプチン濃度は上昇する9)。したがって,レプチンの体重減少作用に対する感受性の低下,すなわちレプチン抵抗性を獲得することが肥満発症と密接に関連していると考えられている。

     IUGR児では子宮内環境の悪化に適応するために,出生前からエネルギー代謝系が変化している10, 11)。そのため,脂肪組織におけるアディポサイトカインの産生調節にも変調をきたしている可能性が考えられる。本研究では,胎生期の低栄養がレプチンの発現あるいは感受性を変化させ,それを介して成人期の肥満・生活習慣病の発症に関与しているのではないか,との仮説を設定し,その検証のために以下の検討を行うこととした12)

  • 末原 則幸, 磯部 健一
    p. 57-59
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     母体を取り巻く環境要因によって胎児期の原因で生じる子どもや大人の疾病を考えるためにこのシンポジウムが企画されたと考えます。午前のシンポジウムでは,日常摂取される食品中に含まれる薬理作用を有する物質や環境由来化学物質および母体の低栄養が胎児・新生児に及ぼす短期的かつ長期的影響に関して発表していただいた。

シンポジウム午後の部
  • ―日本産婦人科医会外表奇形等調査から―
    山中 美智子, 武井 美城, 住吉 好雄, 石川 浩史, 高橋 恒男, 遠藤 方哉, 朝倉 啓文, 佐々木 繁, 坂元 正一, 平原 史樹
    p. 63-67
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     わが国における神経管閉鎖障害発生の動向

     日本産婦人科医会外表奇形等統計調査

     世界保健機構WHOの主導による非政府組織である国際先天異常監視機構(International Clearinghouse for Birth Defects Monitoring Systems ;ICBDMS)は1974年に構築され,先進25カ国以上が参加して先天異常の発生状況や疫学研究を世界的レベルで行っている組織であり,本部はローマにある。このような組織が構築された背景には,1950年初頭から問題となっていた妊婦の風疹感染による先天異常や1957年にドイツで発売された睡眠薬サリドマイド剤による「サリドマイド事件」という問題があった。2005年からはInternational Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and Research (ICBDSR)と改名し,各国共同による研究も盛んに行われている。

     わが国でも1972年より日本母性保護医協会(通称「日母」,現日本産婦人科医会)が中心となり,全国規模の出産児の外表奇形調査が始められた。この日母モニタリングシステムは,1989年よりICBDMSの正会員としても加盟し,現在その本部は横浜市立大学医学部の産婦人科におかれて活動を行っている。ローマのICBDMS本部とは四半期ごとに年4回データの情報交換を行い,環境因子をはじめとするさまざまな催奇形因子に関する情報を入手している。本調査では全国約330分娩施設の協力を得て,各病院で生まれた先天形態異常児のモニタリングを行っており,日本の総出産児の毎年おおよそ10%にあたる児をモニタリングしていることになる。北海道から沖縄にわたるこれらの協力施設には,個人医院からいわゆる三次病院にいたるさまざまな分娩施設が含まれており,わが国における分娩のほぼ全体像を反映していると考えられる。

     対象となるのは妊娠22週以降の出産児(死産児も含む)で,生後7日目までに診断のついた形態異常である。なお,この対象となる期間は調査開始から1982年までは妊娠28週以降,1983年から1992年までは24週以降,1993年からは現在の妊娠22週以降というように,時代とともに調査対象期間が変化している。超音波診断装置の普及に伴って,出生直後あるいは出生前に心血管系の異常が見つかることも増えてきているため,1997年からは「心血管系の形態異常」も調査対象に含まれることになった。

  • ―日本産科婦人科学会周産期登録システム登録施設のデータをもとに―
    中村 靖
    p. 69-75
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     わが国における女性の喫煙率は,全体で見ると約30年にわたって15%程度でほぼ横ばいであるが,これを年齢別にみると,高年齢層では減少傾向にある反面,20歳代,30歳代のいわゆる妊娠可能年齢層においては年々上昇傾向にあることが,各種調査で明らかとなっている。これに伴って妊婦の喫煙率も上昇傾向にあり,厚生労働省乳幼児身体発育調査1)では,平成2年における5.6%から平成12年には10%と,2倍近い数字になっている。このことは,子どもの健康に重大な悪影響を及ぼすおそれにつながることが推察されるが,わが国における大規模調査は多くは行われていない。そこで,日本産科婦人科学会の周産期登録システムがこの調査に利用できるのではないかと考え,今回の検討を行った。

  • 北島 博之, 小瀬良 幸恵, 藤村 正哲, 中農 浩子, 山本 悦代, 金澤 忠博
    p. 77-86
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     カンガルーケアは,赤ちゃんを母親の裸の胸に抱いて皮膚と皮膚を接触させる育児方法で,南米コロンビアのボゴダで極低出生体重児の養育に用いられ,今や日本も含め世界中の国々のNICUで実施されるようになってきた1, 2)。カンガルーケアは,濃密な母子接触により,極低出生体重児を感染から守りその生存率を高め,さらに養育遺棄を減らす効果があるといわれている。しかし,カンガルーケアが母子関係に及ぼす影響には,花沢による母親の対児感情評定尺度などによる評価が行われているほかには,実証的な研究がほとんどないのが現状である。大阪府立母子保健総合医療センターでは,1998年9月よりNICUにおいて極低出生体重児を対象にカンガルーケアを実施してきた。本研究はカンガルーケアを体験した児と体験しなかった児について,1歳半の定期検診時の発達検査場面での録画記録から,母子の行動を定量的に分析することで,カンガルーケアの効果の検証を試みた。分析の結果カンガルーケア実施群は,未実施群に比べ,児の泣く割合が低く,微笑みが多く,母親の笑いが多く,否定や疑問の発話が少ないなどの特徴がみられた3, 4)。この結果は極低出生体重児へのカンガルーケアが1歳半での母子関係に影響を及ぼしている可能性を示唆する。さらに,退院2年後に実施したアンケート調査では,入院中の主な出来事として,直接赤ちゃんに関わった事象(初めて赤ちゃんに触った・初めて抱っこした・初めて直接母乳をあげたなど)を,未実施群に比べ実施群の父母ともが強く記憶している割合が高かった。これらのことから,カンガルーケアは両親の赤ちゃんへの情緒的な結びつきを増強しており,本来赤ちゃんの未熟性のために出生時から引き離されていた母子の関係を育むうえで効果的な方法であると考えられる。今回は以上の1歳半の研究に加えて,3歳までの縦断的追跡と正期産児との比較を検討したので報告する。

  • 原田 正平
    p. 87-91
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     微量元素の一つであるヨードは甲状腺ホルモンの必須の構成要素であり,その過不足は生体にとって重大な影響を及ぽす。ヨード欠乏症による甲状腺機能低下症は古くからの問題であるが,ヨード過剰もまた甲状腺機能低下症の原因となる。

     特に妊娠中の母体がヨード過剰状態に置かれたときの胎児への影響はときに深刻なものとなり,巨大な甲状腺腫による出生直後の児の死亡が報告されて以来1),重大な問題として関心が持たれている。妊娠中のヨード過剰の原因としては種々の薬剤1~5),ヨード含有造影剤6~10),ヨード含有消毒剤11, 12),食事性の影響8, 9, 13, 14)といった報告がみられているが,特に周産期に母体に使用されたヨード含有消毒剤15~20)の影響は胎盤を介した血行性のものだけではなく,母乳を介して乳児期にまで甲状腺機能低下症を引き起こすことが報告されている18)

     また周産期はヨード含有造影剤21~23)やヨード含有消毒剤24~37)が新生児に直接使用され,ヨード過剰による新生児一過性甲状腺機能低下症の原因となる危険性も高い。

     個々の胎児・新生児甲状腺機能への影響も重要であるが,先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)のマススクリーニングは,わが国で出生するほとんどすべての新生児の生後4~6日目の甲状腺刺激ホルモン(TSH)値を測定していることから,ヨード含有消毒剤を母体・新生児に使用していた産科医療機関での偽陽性者増加といった形で大きな影響を受けてきた28)。この問題については1990年代初めごろに種々の調査研究がなされ19, 20, 27~31), 北海道などで産科医療機関でのヨード含有消毒剤使用自粛の勧告に至り,その後偽陽性者減少という形で決着をみていた29)

     しかし,全国のスクリーニング検査機関を対象に特定医療機関での偽陽性者増加の有無を調査したところ,現在でもその疑いのあることが報告され38), また子宮卵管造影によると考えられる新生児一過性甲状腺機能低下症の症例が新たに発見されるなど,周産期のヨード含有剤使用が今もなお問題を引き起こしていることが明らかとなった。そこで,現状を把握し対策を講じるため,全国の産科,新生児,小児外科の専門医療施設を対象としてヨード含有剤の使用状況と胎児・新生児への影響に関する知識の普及度について調査した。

  • ―特に妊娠した看護師における「看護業務が妊娠に与える影響」と「妊娠が看護業務に与える影響」の検討―
    小林 康祐, 小林 織恵, 里野 美佳, 佐藤 大悟, 松本 華苗, 関口 将軌, 仁平 光彦, 栗原 聡美, 島 絵美里, 八重樫 優子, ...
    p. 93-99
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     緒言

     近年は女性の社会進出も進み,平成15年度には雇用者数の40.8%を女性が占めるに至っている1)。しかし,女性労働者の場合には男性にはない性差,婚姻,妊娠という因子が加わることで,男性労働者とは異なる肉体的・精神的なトラブルが起こり,最終的には疾病に至る可能性も考えられる2)。特に医療の場では女性看護師が妊娠した場合,労働そのもののストレスに加えて,看護業務に特有の要因が加わることで妊娠経過や胎児への影響が今までにも報告されている。しかし,その報告の多くは疫学的なアンケート調査であって,実際に産婦人科医が関与しているものはほとんどない。

     本研究では,医師にとって身近な存在である看護師の妊娠・分娩経過を調べることにより,女性労働者が妊娠・出産した場合に生じうる医学的な問題点はどのようなものかを検討し,さらに看護師と同じように立ち仕事や肉体労働が多い看護助手との比較を通して,それらの問題点が看護業務という特殊な労働のみに起こりうるものなのかどうかも併せて検討した。また「妊娠が看護業務に与える影響」を考えるためにアンケート調査を行い,妊娠中に看護業務を行う際の問題点を調べた。最後に,妊娠している看護師の1日の歩行数や労働中の子宮収縮を調べて専業主婦と比較したので併せて報告する。

  • 堺 武男, 杉本 充弘
    p. 101-104
    発行日: 2005年
    公開日: 2024/07/29
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     新たな形でスタートした日本周産期・新生児医学会 周産期シンポジウムは「生活,環境,薬剤などの母児に及ぼす影響」をテーマとして開催され,午後の部は環境のさまざまな要因による母児への影響について6つの発表がなされた。詳細は各々のまとめを参照いただくとして,以下に総体としてのまとめを行いたい。

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