周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第23回
会議情報

シンポジウム午前の部
母児のダイオキシン類への曝露状況と次世代への影響
髙井 泰生月 弓子堤 治亀井 良政竹内 亨武谷 雄二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 35-43

詳細
抄録

 要旨

 我々人類は内分泌撹乱物質に曝露されているが,その健康影響,特に生殖機能や胎児・次世代への影響については不明の点が多い。ダイオキシン類は,ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PCDDs), ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs), コプラナーPCB(Co-PCBs)の広義の総称で,動物実験では微量でも生殖・発生異常を生じることが報告されている。近年では,胎児の甲状腺機能を撹乱して出生後の精神神経系の発達に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 我々は,分娩時に得られた母体血,臍帯血,羊水を対象として,ダイオキシン類濃度(PCDDs, PCDFs, Co-PCBs)を高分解能GC-MS法により測定し,母児環境の汚染状況を評価し,物質ごとの体内・胎内動態を検討した。その結果,母体血中Co-PCBs濃度と母体年齢の間に有意な正の相関を認めた(P=0.0076)。検体総重量あたりの濃度で比較すると,母体血では,臍帯血,羊水に比べてすべてのダイオキシン類濃度が有意に高かった(いずれもP<0.0001)。しかしながら脂肪重量あたりに換算すると,羊水中PCDFs濃度が母体血,臍帯血に比べて有意に高かった(P=0.0056)。母児のダイオキシン類曝露状況の母児相関を検討したところ,PCDDs濃度,Co-PCBs,総ダイオキシン類濃度において,母体血・臍帯血間に有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0155, P<0.0001, P=0.0253)。母児の甲状腺関連ホルモンと,母体血,臍帯血,羊水中の各種ダイオキシン類濃度との相関の有無を検討したところ,母体血PCDFs濃度と,臍帯血遊離トリヨードサイロニンおよび遊離サイロキシンとの間に有意な正の相関を認めた(それぞれP=0.0066 ; P=0.0312)。

 ダイオキシン類(PCDDs, Co-PCBs)において母体血と臍帯血中濃度に有意な母児間の相関がみられ,経胎盤的な内分泌撹乱物質移行の実態が確認された。また,羊水中脂肪成分にダイオキシン類(PCDFs)が蓄積することが明らかとなった。脂肪親和性の高いダイオキシン類は母体から胎児への脂肪酸輸送に伴って経胎盤的に胎児に移行すると考えられているが,今回の我々の報告はこれを支持するものと考えられた。母体のダイオキシン類(PCDFs)曝露と胎児の甲状腺ホルモン値に有意な正の相関を認めたことは,ダイオキシン類が次世代の発育に及ぽす影響を検討するうえで考慮すべき知見であると思われた。

著者関連情報
© 2005 日本周産期・新生児医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top