周産期学シンポジウム抄録集
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Print ISSN : 1342-0526
第32回
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プレコングレス
胎児治療,EXIT
新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
遠藤 誠之
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p. 21-25

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抄録

 はじめに

 出生前画像診断技術の飛躍的な向上により,出生後の気道確保に問題を生じるような胎児疾患を正確に診断できるようになってきた。早めに診断できるようになったことで,分娩時に新生児蘇生を行う医師をあらかじめ確保しておく,あるいは新生児に対して出生直後に手術が行えるように手術室を準備しておくなど,分娩前にあらかじめ必要な分娩管理体制を整えておくことができるようになった。

 EXIT(ex utero intrapartum treatment)procedureは,帝王切開時に胎盤血流を維持したまま,児の気道を確保し,気道確保後に娩出させる方法で,最も重症の気道確保困難予想症例に対して選択される。すなわち,EXITの最大の目的は,出生時に気管確保のために長時間かかることが予想される症例に対して,子宮胎盤循環を維持させて,児に対して必要な手技を施術するために必要かつ十分な時間を確保することである。UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)で小児外科医のMichael Harrisonらのグループによって改良された分娩方法で,胎児期に気管閉塞術を施した重症先天性横隔膜ヘルニアに対して,分娩時に気管閉塞を解除し,さらに気道確保するために考案された手術手技である。

 EXITの手術で最も重要な4要素は,①子宮胎盤循環を維持したまま,②主に吸入麻酔で子宮の弛緩を維持して,③持続的羊水注入をしながら,④胎児を臍上半身のみ子宮外に露出して,手術を行う点である。それら以外にも,子宮からの出血を極力抑える,子宮筋層と卵膜の剥離をできるだけ抑える,子宮切開層は胎盤から最低でも6cm以上離れた位置で行うなど,さまざまな注意点がある。これらの要素・注意点を着実に遂行することによって,胎児へ各種手技(喉頭鏡・気管支鏡・血管確保・頚部切開・肺腫瘍切除・ECMO装着など)を行う時間的猶予が生まれ,胎児にとって緊急的かつ危機的な状況から余裕をもって制御可能な状況への打開が期待される。

 現在,EXITの最も一般的な適応は,巨大頚部腫瘍や先天性気道閉鎖など,出生前診断によって出生後の気道確保が著しく困難であると予想される症例である。さらに,巨大肺腫瘍・先天性横隔膜ヘルニア・肺無形成など,出生後の蘇生が困難であると予想される症例に対しても,適応が広げられるようになっている。

 今回,日本周産期・新生児医学会 第32回周産期学シンポジウムでは,現在までに90症例以上,EXITの経験のあるアメリカのフィラデルフィア小児病院胎児診断治療センターで行われているEXITの症例を具体的に呈示しながら,EXITの一連の流れを解説した。本稿では,EXITの具体的な手技の流れ(表1)を図説する。

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© 2014 日本周産期・新生児医学会
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