周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第32回
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序文
  • 田口 智章
    p. 3
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     平成26年2月7日(金),8日(土)に九州大学医学部百年講堂大ホールにて第32回周産期学シンポジウムを開催させていただきました。2日間を通して570名という多くの参加者があり活発な討論となり心から感謝しています。あいにく8日が関東地方の大雪でお帰りの便に混乱を招き申し訳なく思っていますが,きっと思い出の一つとして残ってくれると期待しています。

     今回のテーマは「Pretermを考える 〜preterm児のCPとlate pretermの諸問題〜」でした。Late preterm児とは2005年NICHDが提唱した概念で,早産児の中でも特に在胎34週0日〜在胎36週6日に出生した児と定義されています。早産であるにもかかわらず体重も比較的大きく,出生後臨床的に安定しているlate preterm児は ほとんど成熟し 病気になるリスクは少ないものとして正期産児と同じ扱いを受けてきました。しかしlatepreterm児は生理的にも代謝においても未熟であり,臨床的には全く健康にみえても低血糖,呼吸障害,無呼吸発作など罹病のハイリスクであるということが明らかになってきています。さらに長期的な神経発達予後に関しても,CPのみならず行動や情緒に問題のみられる児も正期産児に比べ多いという報告もみられるようになっています。

     我が国の人口動態統計に基づくと,ここ30年の間でlate preterm児を含む32週〜37週未満の早産児の全出生数に対する割合は約3%から5%に増加しています。今回,多方面から検討を行いましたので周産期医療の現場にフィードバックされ今後の周産期・新生児医療の向上につながることが期待されます。

     また,プレコングレスとして「新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望」を取り上げました。これは産科,新生児科,小児外科の3分野にまたがって苦労している疾患群であり,胎児診断から胎児治療,さらに出生時および出生後の治療と長期にわたる問題点など最新の知見を共有できたと思います。

     さらに会長指定講演として最近話題になっている「母体血を用いた胎児遺伝子診断の現状」について第一人者の関沢明彦教授に講演をいただきました。我々,新生児外科を担当している立場からも,大いに参考になりました。

     ランチョンセミナーは,外科的な立場から内視鏡手術手技に関するものにしました。整容性を考えた小児外科手術および妊孕能を温存する婦人科手術について第一人者の安藤正明先生に映像を中心とした講演をいただきしました。

     懇親会は玄界灘の海の幸のA級グルメの寿司と博多の冬の味覚の「博多もつ鍋」や「博多ラーメン」など楽しんでいただきました。いずれも長蛇の列ができる盛況でした。

     最後に今回のシンポジウムを時間と労力をかけて準備いただいた中村友彦運営委員長はじめ運営委員の諸先生方,今回のテーマ検討段階からご尽力いただいた当時担当理事でおられた久保隆彦先生,九州大学小児外科の木下義晶准教授はじめ教室員の皆様,また,長年メジカルビュー社で「日本周産期学会」の時代から事務局を担当いただいた原鎭夫氏(今回特別表彰)に心から感謝します。

プレコングレス
  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    藤原 ありさ
    p. 15-20
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     新生児の腫瘍は生児の12,500〜17,300人に1人の割合で発症する。発生頻度は奇形腫が最多で,神経芽腫,軟部腫瘍が次ぎ,肝臓,腎臓,眼球,中枢神経は少ないとされる。奇形腫は女児,神経芽腫は男児に多いが,全体的に性差は認めない。卵巣腫瘍は組織学的にはfollicle cystで,経過中に自然消退や茎捻転を起こす場合がある。新生児腫瘍の大部分は良性で,悪性も認めるが予後は良好であるものが多い1,2)。近年,超音波検査,MRI検査によりさまざまな疾患の胎児診断は可能となり,腫瘍性病変は占拠性病変として胎児診断される事例が増えたものの,その種別確定に苦慮することは少なくない。

     当院では,胎児診断から新生児治療までの過程で,診断,プレネイタルに産婦人科医だけでなく小児外科医も関わっている(図1)。今回,胎児診断および出生前からの小児外科医の早期介入にどのような意義があるかを検討した。

  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    遠藤 誠之
    p. 21-25
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     出生前画像診断技術の飛躍的な向上により,出生後の気道確保に問題を生じるような胎児疾患を正確に診断できるようになってきた。早めに診断できるようになったことで,分娩時に新生児蘇生を行う医師をあらかじめ確保しておく,あるいは新生児に対して出生直後に手術が行えるように手術室を準備しておくなど,分娩前にあらかじめ必要な分娩管理体制を整えておくことができるようになった。

     EXIT(ex utero intrapartum treatment)procedureは,帝王切開時に胎盤血流を維持したまま,児の気道を確保し,気道確保後に娩出させる方法で,最も重症の気道確保困難予想症例に対して選択される。すなわち,EXITの最大の目的は,出生時に気管確保のために長時間かかることが予想される症例に対して,子宮胎盤循環を維持させて,児に対して必要な手技を施術するために必要かつ十分な時間を確保することである。UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)で小児外科医のMichael Harrisonらのグループによって改良された分娩方法で,胎児期に気管閉塞術を施した重症先天性横隔膜ヘルニアに対して,分娩時に気管閉塞を解除し,さらに気道確保するために考案された手術手技である。

     EXITの手術で最も重要な4要素は,①子宮胎盤循環を維持したまま,②主に吸入麻酔で子宮の弛緩を維持して,③持続的羊水注入をしながら,④胎児を臍上半身のみ子宮外に露出して,手術を行う点である。それら以外にも,子宮からの出血を極力抑える,子宮筋層と卵膜の剥離をできるだけ抑える,子宮切開層は胎盤から最低でも6cm以上離れた位置で行うなど,さまざまな注意点がある。これらの要素・注意点を着実に遂行することによって,胎児へ各種手技(喉頭鏡・気管支鏡・血管確保・頚部切開・肺腫瘍切除・ECMO装着など)を行う時間的猶予が生まれ,胎児にとって緊急的かつ危機的な状況から余裕をもって制御可能な状況への打開が期待される。

     現在,EXITの最も一般的な適応は,巨大頚部腫瘍や先天性気道閉鎖など,出生前診断によって出生後の気道確保が著しく困難であると予想される症例である。さらに,巨大肺腫瘍・先天性横隔膜ヘルニア・肺無形成など,出生後の蘇生が困難であると予想される症例に対しても,適応が広げられるようになっている。

     今回,日本周産期・新生児医学会 第32回周産期学シンポジウムでは,現在までに90症例以上,EXITの経験のあるアメリカのフィラデルフィア小児病院胎児診断治療センターで行われているEXITの症例を具体的に呈示しながら,EXITの一連の流れを解説した。本稿では,EXITの具体的な手技の流れ(表1)を図説する。

  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    佐藤 正規
    p. 27-31
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     胎児画像診断の発達に伴い,以前は出生後にしか診断できなかった新生児腫瘍が,現在は胎児期に診断されるようになってきている。そのため,胎児期にこれらの腫瘍を診断し,腫瘍による気道閉塞の可能性がある場合などには分娩前に治療計画を立てることが可能となった。治療する時期に応じて,胎児期に治療を行ったうえで分娩後に二期的に治療を完遂する胎児治療,分娩時に気道確保などの処置を行うEXIT(ex-utero intrapartum treatment),分娩後に治療を行う新生児治療などが選択される。腫瘍が娩出後の気道を障害する可能性がある場合にはEXITの適応となるが,国内の限られた施設でしか行われない胎児治療と異なり,EXITの麻酔管理は十分な準備をすれば多くの施設で対応可能である。これまで新生児手術の麻酔法はほぼ確立されつつあるが,胎児治療やEXITの麻酔管理法は十分に確立されていないのが現状である。本稿では現時点で最良と思われるEXITの麻酔管理の要点について解説する。

  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    小野 滋
    p. 33-37
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     リンパ管腫は先天性に認められる大小さまざまな大きさのリンパ嚢胞を主体とする良性の腫瘤性病変である。近年は腫瘍ではなく,血管・リンパ管の先天性奇形の一種と考えられるようになり,lymphatic malformationと分類されることが多いが1),本邦ではまだリンパ管腫とよばれるのが一般的である。また,組織学的にも腫瘍ではなく,あくまでも腫瘍性病変であり,拡張したリンパ管組織からなる1層のリンパ管内皮に覆われたリンパ液を含んだ嚢胞の集簇が認められ,リンパ系の奇形性病変である。

  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    黒田 達夫
    p. 39-42
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     去る2014年2月7日に福岡で田口智章教授(九州大学小児外科)を会長に開催された本学会の第32回周産期学シンポジウムでは,難治性良性腫瘍をテーマとして,出生前診断から分娩,生後治療まで診療科の領域を越えて活発な討議が行われた。この中で肝血管腫は時に周産期に致死的な病態を示す重要な疾患であり,厚生労働省難治性疾患克服研究事業のなかで研究班が立ち上がりこれまでに全国調査が行われてきた。それらの結果は色々な形で報告されているが1),本稿では周産期学の視点を加えてあらためて概説したい。

  • 新生児の難治性良性腫瘍の現状と展望
    木下 義晶
    p. 43-47
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     背景と目的

     日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の1996年から2000年の全国集計によると,胚細胞腫瘍のうち新生児期に治療されたものは計94例であった1)。部位別では仙尾部が最も多く76例,以下,後腹膜7例,頚部1例,精巣・卵巣2例となっており,仙尾部の占める割合が圧倒的に多い。また組織型別でみると成熟奇形腫62例,未熟奇形腫28例,悪性奇形腫1例となっている。予後に関しては死亡例として成熟奇形腫2例,未熟奇形腫2例が報告されているが,いずれも仙尾部原発の10cm以上の症例であった。この傾向は次の5年間の集計である2001年から2005年の集計においても変わらず2),新生児期の奇形腫の死亡例7例の報告では6例が未熟奇形腫,4例が10cm以上の症例となっており,新生児期の奇形腫においての難治性を定義するうえでは巨大な仙尾部奇形腫というキーワードが挙げられる。

     そこで本研究では当院で出生前診断を受けて治療を行った奇形腫群腫瘍を中心に現状を分析し,文献的考察を含めて難治性良性腫瘍としての奇形腫の治療に関する展望について考察することを目的とした。

会長指定講演
  • 関沢 明彦
    p. 51-55
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     1970年代に,ヒトの血液中にcell-free DNA(cfDNA)が循環していることが報告され,癌患者の治療効果判定に腫瘍由来のcfDNAを利用する研究成果が報告された。この報告をヒントに1997年,Loらによって,妊娠中の女性に胎児由来のcfDNAが循環していることが報告された1)。以来,母体血漿中から抽出したDNAを用いて,母体がもたない遺伝子をPCR増幅することで,胎児の遺伝子診断が試みられ,胎児性別診断,RhD陰性妊婦での胎児RhD血液型診断,父親由来の単一遺伝子病などに応用され,その成果が報告された。しかし,母体血漿中のcfDNAの大部分は母体由来であり,胎児由来のcfDNAはその濃度が低いために胎児染色体異常への応用は難しいと考えられていた。しかし,遺伝子解析技術が進歩し,次世代シークエンサーが実用化されたことを契機に,2008年,それを用いて胎児染色体異常の検出が可能なことが報告され,2010年10月には米国で臨床応用され,国内でも2013年4月より臨床研究として開始された。そこで,この新しい世代の出生前検査である無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT)の現状について報告する。

シンポジウム午前の部:Late preterm
  • 早川 文雄
    p. 59-63
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     本邦における早産児の救命率はこの30年余りで飛躍的に向上し,超低出生体重児や超早産児の多くが成長する時代を迎えている。生存率の向上は新生児医療の進歩を反映しているが,そのわりに成長した子どもたちの発達予後は改善していない。超低出生体重児の6人に1人が脳性麻痺,5人に2人が知的な問題をもっている1)。欧米では在胎23週から30週に出生した児で大差はなく,およそ3人に1人が何らかの支援を必要としている2,3)。これまで亡くなっていた児が生存するのだから,障害が残っても仕方ないという考え方があるかもしれないが,すべての早産児や両親が望むインタクト・サバイバルへの道は,今なお険しいことを認識する必要がある。

  • 森岡 一朗
    p. 65-69
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     わが国では総出生数の減少にも関わらず低出生体重児が増加している。その一つの要因として在胎34から36週で出生するlate preterm児の存在が挙げられ,その成長発達の評価はフォローアップのうえで重要である。しかしながら,わが国におけるlate preterm児の成長障害に関する疫学データは乏しい。

     本研究の目的は,神戸市におけるpopulation-based研究において,late preterm児における低身長の発生頻度を明らかにし,正期産児よりも低身長の発生の危険性があるかどうかを明らかにすることである。また,わが国でも条件を満たすsmall-for-gestational-age(SGA)性低身長症では,成長ホルモン(growth hormone:GH)治療の適用が認められているため,その適応と考えられる児の発生頻度に関して調査した。

  • 菅 幸恵
    p. 71-77
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     2008年の米国National Institute of Child Health and Human Development(NICHD)のリポート1)以降,妊娠34週から36週のlate preterm児(LP児)の新生児は,従来考えられていた“near term”の概念とは異なる高い有症率が問題となっている2)。その短期予後として特に高い呼吸障害の発症率が注目3,4)され,respiratory distress syndrome(RDS)やtransient tachypnea of the newborn(TTN)はLP児の重要な問題点である4,5)。The Consortium on Safe Laborの報告4)では,39〜40週と比較すると36週でもRDSは9.1倍,TTNも6.1倍と呼吸障害のリスクが高いことが示されている。

     わが国においても従来の“near term”という概念から,LP児の分娩管理は,今日においても産科一次施設で取り扱われることも多く,母体搬送,新生児搬送のあり方については明確な管理指針がない。そこで,国立病院機構(National Hospital Organization:NHO)の周産期母子医療センターの多施設共同研究として,本邦での単胎妊娠34〜36週のLP児における呼吸障害の発症関連因子を明らかにし,産科側の視点から搬送システムを含めた周産期管理のあり方を検討した。

  • 大場 智洋
    p. 79-84
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     近年,早産児の新生児治療は目覚ましい発達を遂げており,重篤な胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)や妊娠高血圧症候群などの場合には,正期産を待たず,late preterm(LP)に人工早産にするほうが母児への危険を回避できるとの考えのもと管理が行われる。一方,LP児は正期産と比較し,短期的な児の予後は変わらなくとも,長期的にみると,発達障害のリスクが高いと報告されており1〜3),産科医は,そのような出生児の発達予後をも考慮して,分娩時期を検討することが求められている。

     しかし,LP児は正期産と比較し,FGRなどの発達予後に有害となる周産期事象をもつ症例が多く,そのこと自体が児の悪い予後と直接関連している可能性があり,LPに早産すること自体の問題が正確に検討されていないおそれがある。そこで,われわれは有害な周産期事象がない場合,LP児と正期産児の発達予後は同等であると考えた。

     本検討の目的は,LP児の発達予後に有害となる出生前後の周産期リスク因子を明らかにし,それらの背景の頻度に違いがない場合,LP児と正期産児の発達予後に大きな違いはないことを明らかにすることである。

  • 杉山 裕一朗
    p. 85-91
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     Late preterm(LP)児は正期産児と比べて,脳性麻痺や小児期の行動・情緒の異常の頻度が高いことが知られている1,2)。新生児脳の受傷部位や侵襲の強さ,時期の推定には頭部MRIが有用であることは,多くの論文で示されている3,4)。新生児低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopaty:HIE)は,①受傷の強さ,②受傷時間,③成熟度を軸に分類して考えると理解しやすい。新生児HIEにおける頭部MRI異常の模式図を図1に示す。近年ではLP児でも撮像される症例が増えている。しかしながら多くの研究では早産児型,正期産児型と分類して検討されており,その移行期であるLP児についてのMRI所見に関する検討はまだ少ない。

  • 与田 仁志, 光田 信明
    p. 93-94
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     「Pretermを考える〜preterm児のCPとlate pretermの諸問題〜」と銘打たれた第32回周産期学シンポジウムの午前の部のテーマは「Late preterm」であった。冒頭,座長から「near term」に変わり「late preterm」という用語がNational Institute of Child Health and Human Development(NICHD)から提言されるに至った背景が紹介された。諸外国のみならず本邦でも出生数の約10%を占めるlate preterm児が医学的また,社会的にも問題となっている現状についても触れ,本シンポジウムで4名の演者が取り上げる母児の医学的問題点が紹介された。海外の報告からlate preterm児の急性期のみならず,長期的な発達面でもterm児とは区別してフォローアップする必要性について述べた。また,フォローアップで長期予後を論じる際にその縮尺として使用される発達評価方法について,代表的な客観的発達検査法である「新板K式発達検査法」と「Bayley乳幼児発達スケール」を紹介し,「運動領域・認知領域・言語領域」の共通した項目とそれぞれの特色について解説した。

シンポジウム午後の部:Preterm児のCP
  • 早川 昌弘
    p. 97-101
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy:HIE)は,脳性麻痺,精神発達遅滞,てんかんなどの神経学的後障害の原因となる疾病であり,周産期医療においては,最も重要な疾病の一つである。

     2012年に日本周産期・新生児学会の周産期学シンポジウム運営委員会が中心となり本邦における中等度〜重度のHIEの発症状況ならびにそのリスク因子の解析を行うことを目的としてアンケートによる全国調査を行った。第31回周産期学シンポジウムプレコングレスにて,調査結果の一部を「周産期学シンポジウムアンケート調査報告 〜本邦における新生児低酸素性虚血性脳症の現状と病態に関する研究〜」として,在胎37週以上の児の概要について報告した1)。わが国における在胎37週以上の中等度〜重度のHIEは出生1,000に対して0.38であり,中等度〜重度のHIEにおける予後は,臍帯異常,院外出生,蘇生の程度,Apgarスコア,入院時血液ガス所見,入院時検査における白血球数,乳酸値,LD値,CK値,AST値,頭部MRI所見と関連があることを明らかにした2)

     在胎34〜36週出生の児は,正期産に近いためほとんどの症例で出生体重が2,000gを超えており,near-termとよばれて正期産児と準じて管理されていた。しかしながら,これらの児は正期産児と比べ新生児合併症が多く,発達予後が悪いことが報告されており3,4),早産児であることを認識するためにlate pretermとよばれるようになった3)。HIEにおいても,late preterm児と正期産児に差異があることが予想されるが,late preterm児におけるHIEの報告はわずかに散見されるのみである5,6)。今回は,「周産期学シンポジウム運営委員会報告 Late preterm児(在胎34〜36週)の低酸素性虚血性脳症」として,late preterm児におけるHIEの概要について検討した。

  • 笹原 淳
    p. 103-107
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     早産期における前期破水は,早産の大きな一因となりうる1, 2)。早産期前期破水症例における産科管理として,抗菌薬を用いた母児感染症の予防,子宮収縮抑制剤による子宮収縮抑制・妊娠期間の延長,特に34週未満の分娩が予想される場合における胎児肺成熟目的とした母体ステロイド投与を組み合わせた,待機的管理が推奨されている3, 4)。しかしながら,待機的妊娠管理は妊娠週数の延長と胎児発育が期待できることと,子宮内感染の機会を上昇させることの相反した状態での管理を強いられる。これらの管理方法は,児の短期予後,すなわち周産期死亡や新生児期合併症に対しての一定の効果を認めるが,児の長期予後に関する効果は不明である。

     本研究の目的は,待機的管理を行った早産期前期破水症例において,児の長期予後を明らかにし,長期予後不良に対する周産期因子を明らかにすることを目的とした。

  • 石原 千詠
    p. 109-113
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     Preterm児のcerebral palsy(CP)の成因は正期産児と比較し,複雑でその発症を回避する手段は確立されていない。そこで鹿児島市立病院総合周産期母子医療センターにおけるpreterm児のCPの周産期背景を検討し,その発症因子と今後の課題を明らかにしていくことを目的とした。

  • 山下 理絵
    p. 115-121
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     近年,先進国における脳障害発症頻度は(2〜3/1,000)と不変である1)が,周産期医療の進歩によりpreterm児の脳障害発症頻度は増加傾向にあると報告されている2,3)。宮崎県のデータでも脳障害登録児の60%以上がpretermであり脳障害に占める割合が多かった。また,2005年のNational Institute of Child Health and Human Development(NICHD)によるlate pretermの提唱以降,late preterm児の病態が注目されるようになり,脳性麻痺(cerebral palsy:CP)発生リスクがtermの3.39倍と報告されている4)。このように脳障害発症頻度を減らすためには,pretermの脳障害の背景を明らかにすることが必要である。

     今回われわれは宮崎県のpopulation-based studyに基づき,pretermとlate pretermの脳障害を検討し,脳障害減少へ繋げることを目的とした。

  • 小川 正樹
    p. 123-127
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     背景および目的

     常位胎盤早期剥離は,母児双方とも重篤な転帰に至らしめる疾患である。日本においても,いまだに妊産婦死亡の主因であるとともに,周産期死亡の1/3を占める。したがって,周産期予後の改善に向けて,本症に対する有効な治療戦略を見出す必要がある。しかし,病因が十分に解明されていないことより,解決を困難とさせている。

     一般的に,常位胎盤早期剥離は,「正常位置,すなわち子宮体部に付着している胎盤が,妊娠中または分娩経過中の胎児娩出以前に,子宮壁より剥離するもの」と定義される1)。一方,前置胎盤においても早期に胎盤の剥離を伴うことがあり,警告出血ととらえられる。ともに胎盤剥離が早期に発生する疾患であり,separation of placentaとして両疾患を一つの疾患概念として捉える傾向にあるが,疾患の病態を明らかにするには,全体としてとらえるのではなく,より個別化した解析が求められる。

     病理学的に本症は胎盤絨毛と子宮脱落膜との接着が何らかの要因で破綻することにより発症する。この点に関して,Ananthらは接着を阻害する(破綻させる)機序として二つの経路があるとの仮説を提唱している2)。すなわち,妊娠中期に認められるacute processと正期産期に認められるchronic processである。前者では,炎症性のサイトカインが関与し,後者では,血管内皮障害に伴うものと理解される。

     われわれはこれまで大規模な後方視的検討を行いすべての症例から予後不良因子が何であるかの同定を行ってきたが,本症の病理学的な要因から考えると,発症時期に応じた検討が必要であると思われる。したがって,本研究では,正期産期発症を除く早産期発症症例に限定し,またかつ週数によりより層別化することにより,本症の予後不良因子を明らかにすることを目的とした。

  • 中村 友彦, 村越 毅
    p. 129
    発行日: 2014年
    公開日: 2024/03/01
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     早期産(preterm)とは妊娠37週未満に分娩となった状態を指し,妊娠32週未満はvery preterm,妊娠28週未満は超早期産(extremely preterm)とよばれる。2005年にNational Institute of Child Health and Human Development(NICHD)から,妊娠34週以上37週未満をlate pretermという表現が提案された。Late preterm児は,哺乳,血糖,黄疸,呼吸障害など入院中にさまざまな合併症が正期産児よりも高率に発生する。また退院後も感染症などによって再入院率や救急室受診率が高く,near termというよりは,以前として未熟であることを明確にする必要がある。また,late preterm児は早産児の約60%を占めており,重要な治療,フォローアップの対象である。Preterm児は入院中に肺サーファクタントの欠乏による呼吸窮迫症候群,帝王切開による一過性多呼吸などの呼吸障害の発症頻度が高い。無呼吸発作の頻度も高く,退院後もRSウイルス感染症の罹患率が高い。また,正期産児に比べ低血糖となる頻度が高く輸液を要する。無症候性低血糖でも神経発達の長期予後に影響が出るので,生後早期は定期的な血糖測定などの新生児管理が重要である。

     Preterm児は,正期産児に比べ脳性麻痺,発達障害の頻度が高いのでないかと推測されるがわが国に正確な疫学的データがない。そこで今回「Preterm児のCP」というテーマのシンポジウムを企画した。山下理絵先生の報告では宮崎県の脳障害児における早産児の割合が増加しており,早産児のCP予防,治療は現在の周産期医療で重要な問題である。早川昌弘先生の全国調査報告では,早産児のCPのリスク因子は正期産児のようにはっきりしないという特徴が示された。早産児のCPの脳病変は,早川文雄先生の基調講演でも示されたが,あらためて石原千詠先生,山下理絵先生によっても在胎週数によって脳病変が異なることが示された。また,その背景も前期破水,絨毛膜羊膜炎,双胎,生後早期の感染症,前置胎盤,常位胎盤早期剥離,母体妊娠高血圧などさまざまで,かつ妊娠(在胎)週数によってその重要度が異なることが示された。正期産児CPの予防,治療は低酸素性虚血性脳症(新生児仮死)に対する対応が主となるが,今回のシンポジウムでは早産児のCPは妊娠週数,在胎週数に応じた予防,治療戦略が必要であることが示され,今後preterm児の長期的なフォローアップと早期療育,特別支援についての議論が必要である。

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