2020 年 25 巻 2 号 p. 115-120
【目的】磯部が「医者不信,医療不信にはコミュニケーション・クライシスの側面がある」と述べた.当科外来での,「時間のかからない患者は『いい患者』と医師に思われているように感じる.」と訴える患者が少なくないことがこの一つにあたると思われる.当科不定愁訴外来では,この問題の一つである外来の限られた時間の使い方を「工夫」することで両者の満足度が多少とも上がらないかと考え検討した.【対象・方法】23名(男性12名,女性11名)を対象に,2人でペアを作り,話し手の喋りを聞き手が何も口を挟まず1分間強聞いてもらい,それについてのアンケートを行い,当院不定愁訴外来受診者の不定愁訴スコア(Score of Indefinite Complaints,以下SIC)を加え検討した.【結果】アンケートには,相手が何も口を挟まず聞いてもらうことに対し,話し手が聞き手に対し「思っていたよりも十分に聞いてもらった」という満足感を感じるという答えが多かった.【考察】我々はその患者との良好な関係を築くための一つの方法を提案する.提案:『1分』の余裕がある場合1分間患者の顔を見,相槌のみで話を聞く.今回の研究で示したように,たとえ短時間であっても,患者は医師に聞いてもらったという満足感を得る可能性が高い.加藤は,「患者には自ら治る力を備えており,それは医療現場における重要な社会的資源となる.」と述べている.今回の実験においても,「話すことで頭の中の言いたいことが整理された」と場合によっては治療のヒントになる発言も生まれやすくなる可能性もある.加藤はまた,「患者は医療者の知識を増やしたり技術開発をするための研究材料ではなく,本来医療の中心にあるべき存在.」とも記している.医師と患者との良好な関係を構築するため,医師が患者に対し「何かできないか」ともがき苦しむことは,今後医療の場に進出するであろうAIにはない,我々人間にのみ与えられた特権ではないだろうか.