2020 年 25 巻 2 号 p. 121-128
妊娠期・授乳期の薬剤の使用に対する不安は,治療の中断だけではなく妊娠・授乳の中断につながる可能性がある.しかし,基礎疾患の治療のために継続した服用が必要な女性も少なくない.その他,妊娠・授乳期に治療のために薬物治療が必要となる場合もある.その際には薬剤の評価と服薬カウンセリングが必要となってくる.当院では妊婦・授乳婦専門薬剤師(以下専門薬剤師)が産婦人科医師とともに妊婦・授乳婦の薬相談に対応している.相談者希望がある場合は専門薬剤師が,妊娠週数・使用薬剤・使用時期・使用期間,授乳期では授乳状況も聞き取り薬剤の情報を収集し評価している.今回2015年2月から2018年12月までに専門薬剤師が対応した190例を解析した.相談時期は妊娠前12件(6%),妊娠期125件(66%),授乳期53件(28%)であった.妊娠前相談ではすべて医療用医薬品の相談であった.妊娠期では医療用医薬品の相談が105件(84%)であった.授乳期では医療用医薬品の相談は49件(92%)であった.カウンセリング後の変化として,妊娠期においては,使用前相談では必要な薬剤が選択され開始された.使用後相談24件中21件で妊娠の継続の希望が確認された.3件においても明らかな中絶は確認されなかった.自己中断例では妊娠期・授乳期すべてにおいて必要な治療薬剤の再開がみられた.心理的変化として安心したと発言があったのは妊娠前8件(67%),妊娠期69件(55%),授乳期34件(64%)といずれの時期においても半数を超えていた.妊娠・授乳期の使用について不安を傾聴するとともに,薬剤の胎児および乳児に対するリスクの程度を正しくかつ分かりやすく説明し,服薬に関して相談者自身や夫が倫理的・科学的に妥当な判断ができるよう支援することは,納得したうえで妊娠・授乳の継続および治療について自己決定を行うことにつながると考えられる.