女性心身医学
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25 巻, 2 号
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巻頭言
第48回日本女性心身医学会学術集会
特集 第30回日本女性心身医学会研修会報告
原著論文
  • 秋月 百合, 甲斐 一郎
    2020 年 25 巻 2 号 p. 103-114
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    【目的】不妊治療女性患者(以下,不妊女性)が経験するNegative social interactions(NSI)およびPositive social interactions(PSI)の抑うつへの影響を明らかにすることを目的とする.本研究では,概念整理の結果,NSIを「一方の個人に否定的・非支援的との認知をもたらすような他方の個人の言動や態度を含む社会的相互作用」と捉え,同様に,PSIを「一方の個人に肯定的・支援的との認知をもたらすような他方の個人の言動や態度を含む社会的相互作用」と捉える.【方法】2010~2011年,関東圏内の医療機関に通院する不妊女性300名を対象に,質問紙調査を実施した.ソース別NSI尺度(夫NSI,実親NSI,夫の両親NSI,友人・その他NSI)およびソース別PSI尺度(夫PSI,実親PSI,夫の両親PSI,友人・その他PSI)を説明変数とし,CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を従属変数として重回帰分析を行った.【結果】206名から回答を得た(回収率68.7%).重回帰分析の結果,NSIにおいては,実親をのぞく友人・その他,夫,夫の両親のNSIがCES-Dと有意な関連を認め,NSI経験が高い人ほど抑うつが高い傾向がみられた.一方PSIでは,いずれのソースにおいてもPSIとCES-Dとの有意な関連は認められなかった.また,不妊女性のCES-Dに対する夫NSIと夫の両親NSIの交互作用効果が認められ,夫NSIおよび夫の両親NSIともに高い女性がとりわけ高い抑うつを示した.【考察】本結果から,不妊女性の抑うつに対するNSIとPSIの影響の仕方は異なり,PSIは不妊女性の抑うつに大きな影響を与えないが,NSIは彼らの抑うつを高める要因となることが示唆され,複数のソースからのNSIを経験すること,とりわけ夫と夫の両親からのNSIを経験することは,彼らの抑うつの悪化を増幅させる可能性が示唆された.周囲の人々が不妊女性とかかわる際には,ソーシャルサポートを提供するだけでなくNSIを引き起こさないようかかわることの重要性が示唆された.

  • 吉岡 郁郎, 窪田 文香, 中島 雅子
    2020 年 25 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    【目的】磯部が「医者不信,医療不信にはコミュニケーション・クライシスの側面がある」と述べた.当科外来での,「時間のかからない患者は『いい患者』と医師に思われているように感じる.」と訴える患者が少なくないことがこの一つにあたると思われる.当科不定愁訴外来では,この問題の一つである外来の限られた時間の使い方を「工夫」することで両者の満足度が多少とも上がらないかと考え検討した.【対象・方法】23名(男性12名,女性11名)を対象に,2人でペアを作り,話し手の喋りを聞き手が何も口を挟まず1分間強聞いてもらい,それについてのアンケートを行い,当院不定愁訴外来受診者の不定愁訴スコア(Score of Indefinite Complaints,以下SIC)を加え検討した.【結果】アンケートには,相手が何も口を挟まず聞いてもらうことに対し,話し手が聞き手に対し「思っていたよりも十分に聞いてもらった」という満足感を感じるという答えが多かった.【考察】我々はその患者との良好な関係を築くための一つの方法を提案する.提案:『1分』の余裕がある場合1分間患者の顔を見,相槌のみで話を聞く.今回の研究で示したように,たとえ短時間であっても,患者は医師に聞いてもらったという満足感を得る可能性が高い.加藤は,「患者には自ら治る力を備えており,それは医療現場における重要な社会的資源となる.」と述べている.今回の実験においても,「話すことで頭の中の言いたいことが整理された」と場合によっては治療のヒントになる発言も生まれやすくなる可能性もある.加藤はまた,「患者は医療者の知識を増やしたり技術開発をするための研究材料ではなく,本来医療の中心にあるべき存在.」とも記している.医師と患者との良好な関係を構築するため,医師が患者に対し「何かできないか」ともがき苦しむことは,今後医療の場に進出するであろうAIにはない,我々人間にのみ与えられた特権ではないだろうか.

  • 香西 祥子, 河西 邦浩
    2020 年 25 巻 2 号 p. 121-128
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    妊娠期・授乳期の薬剤の使用に対する不安は,治療の中断だけではなく妊娠・授乳の中断につながる可能性がある.しかし,基礎疾患の治療のために継続した服用が必要な女性も少なくない.その他,妊娠・授乳期に治療のために薬物治療が必要となる場合もある.その際には薬剤の評価と服薬カウンセリングが必要となってくる.当院では妊婦・授乳婦専門薬剤師(以下専門薬剤師)が産婦人科医師とともに妊婦・授乳婦の薬相談に対応している.相談者希望がある場合は専門薬剤師が,妊娠週数・使用薬剤・使用時期・使用期間,授乳期では授乳状況も聞き取り薬剤の情報を収集し評価している.今回2015年2月から2018年12月までに専門薬剤師が対応した190例を解析した.相談時期は妊娠前12件(6%),妊娠期125件(66%),授乳期53件(28%)であった.妊娠前相談ではすべて医療用医薬品の相談であった.妊娠期では医療用医薬品の相談が105件(84%)であった.授乳期では医療用医薬品の相談は49件(92%)であった.カウンセリング後の変化として,妊娠期においては,使用前相談では必要な薬剤が選択され開始された.使用後相談24件中21件で妊娠の継続の希望が確認された.3件においても明らかな中絶は確認されなかった.自己中断例では妊娠期・授乳期すべてにおいて必要な治療薬剤の再開がみられた.心理的変化として安心したと発言があったのは妊娠前8件(67%),妊娠期69件(55%),授乳期34件(64%)といずれの時期においても半数を超えていた.妊娠・授乳期の使用について不安を傾聴するとともに,薬剤の胎児および乳児に対するリスクの程度を正しくかつ分かりやすく説明し,服薬に関して相談者自身や夫が倫理的・科学的に妥当な判断ができるよう支援することは,納得したうえで妊娠・授乳の継続および治療について自己決定を行うことにつながると考えられる.

  • 廣瀬 達子, 白土 なほ子, 宮上 景子, 和泉 美希子, 四元 淳子, 関沢 明彦
    2020 年 25 巻 2 号 p. 129-135
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    妊婦は児の先天性疾患の有無を不安に思い,出生前遺伝学的検査を検討するが,その前後では,妊婦やそのパートナーに強い心理的ストレスが生じている可能性がある.今回の研究では,検査前に実施した遺伝カウンセリング(Genetic Counseling:GC)の妊婦とパートナーへの影響をそれぞれの心理的ストレスの評価で調査し,GCの効果について検討することを目的とした.対象はNIPT(Non-invasive prenatal testing)を目的に2016年1月から2017年5月までに当院を初診した妊婦およびそのパートナー155組で,GC前後に無記名自己記入式質問紙調査を行った.GC前の質問紙は,妊婦の属性などを中心に構成し,GC後の質問紙ではGC前後の気持ちの変化をNRS(Numeric Rating Scale)で評価した.なお,本調査は当院倫理委員会の承認のもとで行われた.

     GC前後でのNRSは,妊婦群ではいずれの項目も有意に変化していた(ストレスp<0.0001,不安p<0.0001,気分の落ち込みp=0.001,安心感p=0.0095).パートナー群は気分の落ち込み以外で有意な差がみられた(ストレスp=0.0001,不安p=0.0002,安心感p<0.0001).妊婦とパートナーではGC前後のNRS点数の傾向に大きな差がなかったことから,GCでそれぞれへの適切な心理支援が実施されたことが示唆された.また,GC前後のNRSの変化値(GC後—GC前)は,安心感のみパートナー群のほうが有意に高かった.このことから,妊婦とパートナーでは安心を得る時期や内容が異なる可能性が示唆された.このように,GC来談者の心理評価を行うことにより,GCが妊婦とそのパートナーの不安やストレスの軽減につながると推察された.

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