抄録
組換えスギの創出には、効率の良い個体再生系が必要である。我々は、ペプチド性植物細胞増殖因子ファイトスルフォカイン(PSK)を用い、不定胚を経由した効率の良いスギ個体再生系を確立した。前年にジベレリンによる着花促進処理を施した約10年生のスギ個体から6月下旬に未熟種子を採取し、滅菌後、未熟種子胚を取り出し、2,4-DとBAを含む改変MS培地に置床し、暗所25℃で培養した。約4週間後embryogenicなカルスが確認され、これらを2,4-DとBAを含む改変MS液体培地に移植し、懸濁培養した。懸濁培養は暗所で行い、2週間ごとに新しい培地に継代した。回収した培養細胞を、活性炭、ABAを含んだスギ不定胚誘導培地上に移植すると、4~12週後には様々なステージの不定胚が形成した。この不定胚誘導培地にPSKやポリエチレングリコール(PEG)を添加すると、不定胚の誘導効率は上昇し、PSKとPEGの両者を添加した場合には、その効率は劇的に上昇した。また、PEGのみを含む培地で誘導した不定胚は寸詰まりの形態を示し、発芽率が10~60%程度であったが、PSKを含む培地で誘導した不定胚は、正常な形態を示し、ほとんどが発芽した。これらの結果は、PSKがスギの場合でも不定胚形成を促進する効果を持つこと、正常な不定胚形成に何らかの効果を持つことを示唆している。