抄録
目的)シロイヌナズナでは葯の開裂にジャスモン酸が必須である。DAD1はホスホリパーゼA1をコードしており、ジャスモン酸合成時に膜リン脂質からリノレン酸の遊離に関与している(1)。我々はトマトESTデータベースに複数のDAD1様リパーゼ遺伝子ホモログ、DLLを見い出した。その中のひとつ、LeDLL1はトマト種子発芽時に顕著に誘導されており、その発現様式はジャスモン酸合成と相関性がなく、他の機能、例えば種子貯蔵脂肪分解に関与している可能性が示唆された。そこで本研究ではこの可能性を検討するため、LeDLL1の発現様式を詳細に検討すると共に、組換え酵素の酵素学的性質の検討、細胞内局在性等について検討した。方法と結果)LeDLL1 cDNAをESTデータベースから入手し、その全配列を決定した。LeDLL1はシロイヌナズナDAD1とアミノ酸レベルで34%の相同性を示し、リパーゼモチーフを有していた。乾燥種子中でLeDLL1は発現が認められないが、発芽とともに急激に、また一過的に発現量が高まり、その発現時期は種子貯蔵脂肪の転流時期に一致していた。一方、他の器官での発現は殆ど見られなかった。また、大腸菌で発現させた組換えLeDLL1は中性脂肪加水分解活性を有していた。こうしたことから、LeDLL1はトマト種子発芽時の種子貯蔵脂肪分解に関与していることが示唆された。(1) Ishiguro et al., Plant Cell (2001) 13, 2191.