抄録
一般的に高濃度(100 mM以上)の無機塩類は植物の成長を阻害する。このような塩ストレスの機構は、水ポテンシャルや代謝に対する影響の側面から多くの研究がなされてきている。しかしながら、低濃度無機塩類の影響はほとんど明らかにされていない。そこで、黄化レタス芽生えを対象に、低濃度無機塩類の植物の成長に対する影響を調べた。レタス(Lactuca sativa L. cv. Grand rapids)発芽種子を、暗所、25 oC下において、4日間、種々の濃度のNaClやKCl溶液で生育させたところ、50 mM以下の濃度で著しい胚軸伸長促進が認められた。NaClおよびKCl(いずれも20 mM)を処理し、経時的に胚軸伸長を調べた結果、処理後約4日目までは、いずれも水対照を上回る速度で同程度に伸長したが、その後、NaCl処理芽生えの成長速度は次第に低下し、5日目以降、KCl処理がNaCl処理を上回る伸長を示した。細胞の吸水成長を規定しているパラメータの一つである細胞液浸透濃度は、KClおよびNaCl処理により、実効の浸透濃度を上回って上昇し、その上昇はそれぞれKとNaの増加に基づいていた。他方、細胞壁力学的性質を測定した結果、少なくとも5日齢芽生えにおいてはKCl処理はNaCl処理に比べ細胞壁伸展性を増大させた。以上の結果から、低濃度無機塩による黄化レタス芽生えの胚軸伸長促進は、細胞液浸透濃度の上昇に依存する側面に加え、塩類の種類に応じた細胞壁力学的性質の変化によることが明らかとなった。