今世紀に入って,哺乳動物の網膜の内側面に,錐体や桿体とは別の新たな光受容器である内因性光感受性網膜神経節細胞(以下,ipRGCと称す)が発見された.従来研究ではipRGCは概日リズムの調節などの非画像形成機能に影響を与えているとされてきたが,最近の研究において,明るさ知覚などの視知覚に影響を与えているという報告が増えている.本研究では,ipRGCが一般のディスプレイ再現に対する色知覚に与える影響を,実験的に検証することを目的とする.実験には,桿体の影響を抑制するために,高輝度液晶ディスプレイを用いた.X-Riteカラーチェッカーから,測色的な色再現の精度が良かった7色の色票を用いて,6000KのLED照明下で色票とディスプレイ上の再現色との間で知覚的カラーマッチングを実施した.10名の被験者に対する実験の結果,マッチングの結果は平均9.5のCIE⊿E色差となり,測色的な色再現と大きく異なる知覚結果となった.この結果から,ipRGCがディスプレイの色知覚に影響しているという仮説を立て,CIE XYZの各値をipRGCの吸収量で補正したXYZ補正式を導出した.補正式による⊿E色差は平均3.4と改善され,ipRGCを考慮したディスプレイ色再現の必要性を示唆する結果が得られた.