抄録
グルタミン酸脱炭酸酵素 (GAD) はグルタミン酸からγ-アミノ酪酸(GABA) への反応を触媒する酵素であり、大腸菌から高等植物まで広く存在する。我々は一昨年の本大会で、イネは少なくとも二つの異なるアイソフォーム (OsGAD1とOsGAD2)を持ち、前者は双子葉植物のGADのC末端側に見られるカルモジュリン結合ドメイン(CaMBD)を持つのに対して、OsGAD2はCaMBDを持たない新規なGADであることを報告した。これら二種のイネGADの細胞内での活性制御機構を明らかにするために、野生型GAD遺伝子及びC末端側の30アミノ酸残基を欠失させた変異GAD遺伝子をアグロバクテリウムを介した形質転換法によりイネカルス細胞に導入した。ハイグロマイシン耐性カルスから遊離アミノ酸を抽出して、GABA含量を調べた所、野生型の遺伝子を過剰発現させたものでは2~5倍の増加が見られた。驚いたことに,変異OsGAD1の過剰発現株は野生型に比べてわずかな上昇にすぎなかったのに対して、変異OsGAD2を過剰に発現させたものでは100~200倍もの蓄積が観察された。また再生植物体はペール色、葉のカール、矮化などの表現型が見られ、根、茎、葉のいずれの器官でも高いレベルのGABAを検出した。以上の結果から、OsGAD2のC末端側を欠失したことにより、その細胞内での酵素活性が飛躍的に上昇したものと考えられる。このことから、OsGAD2のC末端側は強力な自己阻害ドメインとして働いていると予想される。