抄録
多くの教科書に,「葉単位面積あたりの光合成活性は,葉の面積展開とともに上昇し,面積展開終了時もしくはその少し前に最大に達する。」と書かれているが,これは常緑広葉樹の葉には当てはまらない。常緑広葉樹の葉の単位面積あたりの光合成速度は,面積展開終了時には著しく低く,その後2-3週間にわたって上昇を続ける。常緑樹葉では,細胞分裂や葉緑体分裂が草本葉よりも遅くまで続き,葉緑体の光合成機能は主として葉面積展開終了後に発達する。発生プロセスに必要なエネルギーや物資量の検討に基づき,草と木の葉の発生過程の違いを考察する。
一年生草本シロザの陽葉と陰葉の分化におよぼす部分被陰の影響を調べた。シュート頂分裂組織を被陰しても成熟葉が強光下にあれば,発生途上の葉の細胞層数が増え陽葉化すること,逆に,シュート頂分裂組織が強光を浴びていても成熟葉が被陰されていれば,陰葉化することがわかった。一方,葉緑体の性質はその葉のおかれた光環境によって決定された。これらより,陽葉と陰葉の分化において,少なくとも二つの光環境感受システムが機能していることが明らかである。また,ブナなどの一斉展葉型の落葉樹では,葉が冬芽の中にある時点の光環境によって細胞層数が決定される。このようにシロザとブナの細胞層数決定機構は類似している。