抄録
植物の形態形成において重要な役割を担う頂端分裂組織(茎頂分裂組織、根端分裂組織)の形成は胚発生過程において行われる。また、これらの器官の形成は胚に形成される基本パターンや領域化に基づいて行われると考えられている。我々は、胚発生過程において器官形成能を欠失したイネ胚発生突然変異体を複数単離しているが、これらの突然変異体は器官分化のメカニズムそのものを欠失している場合と、器官分化に先立って行われる基本パターンの形成が異常になっている場合が考えられる。今回、我々はシュート領域(apical region)の分子マーカーであるOSH1、L2層の分子マーカーであるOsSCRの発現パターンが正常であるにも関わらず、器官形成が出来ないorganless1 (orl1) 変異体に注目し解析を行った。
orl1変異体は胚長約1600μmになるが、胚器官を全く分化しない変異体である。しかし、orl1変異体は胚盤上皮細胞由来のカルスからの再分化が可能であり、維管束の分化異常、花の形態異常など幾つかの形態異常を伴う再分化個体を得ている。ORL1遺伝子を単離し解析したところ、トリプトファン合成に関わる酵素をコードしていることが明らかとなった。変異体の特徴などからトリプトファンを前駆体としたIAAの合成にも影響を与えている可能性が考えられ、現在さらに詳しい解析を進めている。