抄録
葉緑体形質転換を利用することで、葉緑体の機能に関する多彩な研究が進展しつつある。例えば、葉緑体プロモータの下流につないだレポーター遺伝子を葉緑体ゲノムに導入することで、in vivoでの遺伝子発現解析が可能である。既にGFPを用いた系が確立されており、組織あるいは細胞特異的な葉緑体遺伝子発現の解析に利用されている。しかしながら、GFPは非常に安定な蛋白質であるため、空間的な解析には有利であるが、環境変動に伴う遺伝子発現応答など、時間的に早い変化を検出するには適していない。本研究では、経時的な遺伝子発現量の測定に適したルシフェラーゼ遺伝子を、高等植物の葉緑体遺伝子発現のレポーターとして用いることを計画した。psbA遺伝子由来のプロモータ領域および5'非翻訳領域の制御下でホタル・ルシフェラーゼ遺伝子を発現させるコンストラクトを作製し、タバコ葉緑体ゲノムに導入した。形質転換体の成熟葉では予定サイズのルシフェラーゼ蛋白質が発現しており、その蓄積量は細胞内の全可溶性蛋白質の1-2%に達した。発光基質であるルシフェリンを投与するとin plantaにおいて十分な強度の生物発光が検出された。さらに、形質転換体でのルシフェラーゼ蛋白質の蓄積量は、光依存的に変化しており、psbA遺伝子の光に応答した発現制御を反映していた。以上の結果は、ルシフェラーゼが葉緑体の遺伝子発現をモニターする有用なレポーターとなる可能性を示唆している。