抄録
寄生植物ネナシカズラにおける寄生根の分化は、宿主植物なしでも人為的に誘導することができる。我々は、すでに遠赤色(FR)光と接触(C)という物理刺激の共存による誘導系とサイトカイニン(CK)処理による誘導系とを確立している。CK処理によって寄生根が誘導されることから、FR光とC刺激による寄生根誘導過程でネナシカズラの内生CKの量が変化している可能性が考えられた。この可能性を検討するために、CK応答性遺伝子の中でもCKに対して非常に早く応答することが知られているレスポンスレギュレーター遺伝子を内生CK量の変化の指標として選び、寄生根誘導過程における発現挙動を調べた。まず、CK処理によって誘導されたネナシカズラ寄生根の組織からレスポンスレギュレーター遺伝子(CRR遺伝子)のcDNAクローンを単離し、CK処理による寄生根誘導系においてCRR遺伝子の発現が寄生根原基の形成に先立って誘導されることを確かめた。次に、FR光とC刺激による寄生根誘導系においてCRR遺伝子の発現パターンを解析した。その結果、CRR遺伝子の発現は、寄生根誘導処理後2時間目までに顕著に増加し、そのレベルは24時間目まで維持されることが明らかとなった。この結果から、FR光とC刺激による寄生根誘導系では、ネナシカズラの内生サイトカイニンの濃度が上昇することによって寄生根の分化が誘導されることが示唆された。