抄録
クロロフィルの代謝経路には二つの役割がある. 第一の役割は,クロロフィルの供給と除去である.クロロフィルは植物が成長する時に盛んに合成され,新たな光化学系が構築される。また,老化時には不要なクロロフィルが分解され,チラコイドタンパク質の効率的な回収を可能にしている.第二の役割は,クロロフィル代謝中間体を供給する役割である.クロロフィル代謝中間体は,活性酸素を発生させる光増感剤でもあるので,必要最小限の量しか蓄積しないように,制御されていると考えられている.しかし,クロロフィル合成系のある反応は酸化ストレスの標的であるため,これらのストレスによってクロロフィル中間体の蓄積が誘導される.また,老化時にも,クロロフィルの分解産物の蓄積が見られる.これらの中間代謝物は光の下で活性酸素を発生させ,酸化ストレス応答や,時には細胞死を引き起こす.実際,クロロフィルの分解にかかわる遺伝子のいくつかは,細胞死関連の遺伝子として単離された.このように,クロロフィルの中間代謝物の蓄積が植物の発育や老化、細胞死など,様々な現象と深くかかわっていることが予想される.今回は,クロロフィル合成酵素であるクロロフィリドaオキシゲナーゼと,クロロフィルの分解にかかわるフェオフォルビドaオキシゲナーゼを例に,クロロフィル代謝と植物の発育との関係を考察する.