抄録
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ (PEPC) はリン酸化による活性調節を受け,リン酸化されるとリンゴ酸等の阻害剤に対する感受性の低い高活性型となる.C3植物においても,PEPCのリン酸化はC4植物と同様に光で誘導されると考えられてきた.しかし,イネ内で発現させたトウモロコシPEPCのリン酸化状態を調べた実験で,イネ葉身のPEPCは昼は脱リン酸化され夜リン酸化されていることが示された.また,イネ葉切片を用いた実験で,トウモロコシPEPCのリン酸化は光条件に関係なく硝酸処理で促進されること,アンモニウムのみを窒素源として生育させると昼夜のリン酸化率の差がほとんど認められなくなることがわかった.以上の結果は,イネ葉身ではPEPCのリン酸化は光で制御されるのではなく,硝酸同化と密接に関係することを示唆している.PEPCのリン酸化を触媒するPEPCキナーゼ (PPCK) 遺伝子すべてをイネから単離しRT-PCRで発現解析を行ったところ,硝酸処理で誘導される遺伝子 (OsPPCK2)と夜発現が促進される遺伝子 (OsPPCK3) が存在することがわかった.イネ葉身では,これら2つのPPCKが生理条件に呼応して機能を分担し, PEPCの活性を制御すると考えられる.