抄録
光合成生物では、大気条件下、光呼吸(ルビスコのオキシゲナーゼ活性)によりホスホグリコール酸が生成される。この物質は光合成の強力な阻害剤であり、これを分解するホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGPase)の欠損突然変異株は大気条件では生育できない。CO2濃縮機構(CCM)により光呼吸が抑制されるクラミドモナスでも同様である。クラミドモナスのPGPase(PGP1)は、CO2律速条件適応において早い時期から活性が上昇し、それに先立ちmRNAレベルが上昇するというCCM関連酵素と良く似た性質をもつが、Pgp1遺伝子発現調節の詳細は明らかでない。PGPaseが光呼吸とCCMの両方の調節に重要な役割を持つ可能性があるため、その遺伝子発現調節機構解明の手掛かりを得る目的で、本研究では、クラミドモナス野生株2137及びpgp1-1突然変異株N142のPgp1及びその5'上流域について、塩基配列を決定し比較検討した。pgp1-1突然変異は開始コドンから数えて98番目の塩基のGからAへの置換であり、その結果第1イントロン開始部位GTが破壊され、結果として、PGPase活性を持たない49アミノ酸残基のペプチドとして読まれるものと結論した。また、Pgp1の5'側上流域の配列を光呼吸関連遺伝子やCCM関連遺伝子のものとの比較から、Pgp1のみが両方の特徴を持つなど、PGP1が環境適応初期に重要な働きを持つ可能性を示唆する結果を得た。クラミドモナスのPGPaseのアイソザイム存在の可能性についても議論する。