抄録
乳液は約30,000種の植物に存在し、種々のタンパク質・酵素・二次代謝物質を含む。乳液(成分)の役割に関しては昆虫の食害に対する防御であるという「防御仮説」が有力であるが、具体的研究例は少ない。本講演では乳液中のタンパク質や二次代謝物質が植物の虫害抵抗性に決定的に重要なことを示す具体例として、パパイアとクワの乳液に関する我々の研究を紹介し、乳液の防御機構としての特性を論じる。パパイア葉はエリサン・ヨトウガ幼虫に対し顕著な致死毒性を示した。この毒性は、葉を細切水洗処理し乳液を洗い流すと消失した。パパイア乳液にはpapainというcysteine proteaseが含まれるが、葉の表面にcysteine protease特異的な阻害剤E-64を塗布すると葉の毒性は失われた。また、papain自体も昆虫に毒性を示した。パパイアでは乳液中のpapainが耐虫性に必要不可欠であった。クワ葉もカイコ以外のガ幼虫に対して顕著な毒性を示したが、細切水洗処理による乳液除去で毒性は失われた。乳液自体も毒性を示した。クワ乳液には糖尿病治療効果も報告される3種の糖類似アルカロイド(糖代謝酵素の阻害剤)1,4-dideoxy-1,4-imino-D-arabinitol (D-AB1), 1-deoxy nojirimycin (DNJ)他が総計乳液湿重の1.5-2.5%、乾重の8-18%(これまでの報告例の約100倍)の高濃度で存在していた。これらの成分はカイコ以外の昆虫に毒性を示した。クワでも乳液成分が被食防衛・虫害抵抗性を担っていた。