抄録
高等植物の葉緑体に存在するNAD(P)H dehydrogenase (NDH)複合体は、ミトコンドリアのcomplex Iのホモログであり、光化学系Iサイクリック電子伝達とchlororespirationに関わる。NDH複合体の11のサブユニットは葉緑体ゲノムに、3つのサブユニットは核ゲノムにコードされる。しかし、細菌のNDH複合体に存在する電子供与体に結合するサブユニット遺伝子は見つかっておらず、ラン藻を含め光合成生物のNDH複合体は、未知のサブユニットを持つと考えられている。シロイヌナズナCRR7はクロロフィル蛍光イメージングにより単離されたNDH活性を特異的に欠く突然変異株から同定された。crr7では、NDH複合体の蓄積が見られない。CRR7 (At5g39210)はプラスチド移行シグナル有する156アミノ酸からなるタンパク質をコードする。CRR7は、既知のモチーフを持たない新規の可溶性タンパク質で、チラコイド膜に局在する。CRR7はラン藻に存在するが、NDH複合体を持たないクラミドモナスには存在しない。さらにNDH複合体がCRR7の安定性に必須であるか調べる目的で、ndhBの発現が異常なcrr2-2においてCRR7の蓄積を調べた。その結果、NDH複合体の蓄積は、CRR7の安定化に必須であることが明らかになった。全ての結果は、CRR7が新規のNDH複合体のサブユニットであることを強く示唆している。