抄録
イネの栽培において、幼穂形成期から乳熟期に落水処理すると玄米へのカドミウムの蓄積量が増加する。農水省の「水稲のカドミウム吸収抑制のための対策技術マニュアル」では、できるだけ湛水状態を長く維持することがカドミウム低減のための対策技術の一つとして推奨されている。土壌中でのカドミウムと鉄の可溶性の動態は表裏の関係にある。すなわち、酸化的な状態では鉄は不溶性となり、カドミウムは可溶性のイオンとなる。鉄欠乏状態のイネの根においては鉄吸収のための2価鉄トランスポーター、OsIRT1、OsIRT2やムギネ酸による鉄吸収に関わる遺伝子群の発現が誘導される。この2価鉄トランスポーターによるカドミウムの吸収について実験を行った。109Cdを用いて吸収実験を行ったところ、鉄欠乏処理を行うと、イネのカドミウム吸収は上昇した。また、この際に水耕液に鉄を添加すると、地上部へのカドミウムの移行量が増加した。このことはイネがカドミウムを鉄と同じ吸収・移行経路を使って吸収・輸送していることを示している。鉄の吸収に変異を持つ酵母(fet3fet4)においてOsIRT1、OsIRT2を発現させ、カドミウム存在下での生育を見たところ、生育が低下した。また、OsIRT1、OsIRT2導入酵母における109Cd吸収も確認された。これらのことから、イネにおいて生体内で鉄欠乏状態が生じた場合に鉄の吸収・移行系を誘導し、これがカドミウムの蓄積に関与していると考えられる。