抄録
2(E)-ノネナールは、ビールを保存した時に生ずるカードボード臭(老化臭の一種)の原因物質であると考えられている。我々は、オオムギの脂質酸化酵素に着目して、2(E)-ノネナールの生成系を解析し、リポキシゲナーゼ-1、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)と3Z:2Eイソメラーゼの3種の酵素が関与することを明らかにした。このカスケード系では、麦芽に由来するリノール酸が、リノール酸9-ヒドロペルオキシド(9-HPOD)に変換され、9-HPODは3(Z)-ノネナールに分解し、最終的に3(Z)-ノネナールは2(E)-ノネナールに異性化される。9-HPOD を分解するHPLと3Z:2Eイソメラーゼは、単子葉植物では知られていなく、新規の酵素であった。HPLは、シトクロームP450のCYP74サブファミリーに属するが、オオムギでは9-HPODを分解するHPLはクローニングされていない。そこで、in silicoスクリーニングにより候補ESTを探索し、完全長cDNAをクローニングした。我々はこの遺伝子をHvHPL2と名付けたが、組換え蛋白質は9-HPODとリノール酸13-ヒドロペルオキシドを分解する活性を有し、CYP74Cに分類されることが分かった。HvHPL2が同定されたことにより、HvHPL2活性変異体を利用し、ビール老化に対して抑制効果のあるオオムギの育種が可能になると期待している。