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植物の胚で細胞の運命が決定されていく過程の分子機構はほとんど分かっていない。本研究では初期胚で細胞の運命や遺伝子の転写パターンを決める位置情報の伝達経路を解明するために、シロイヌナズナのATML1遺伝子の発現調節領域の解析を行った。ATML1は一細胞期の胚で既に発現が見られ、その後発現は最外層の原表皮細胞に限定されていく。高感度の核局在GFPレポーターを用いたプロモーター欠失実験の結果、ATML1プロモーターは幾つかの発現調節領域からなり、各領域は特定の位置の細胞における転写に関わることが分かった。101 bpの領域はATML1の胚における発現パターンに充分な全ての情報を含んでおり、その領域に存在する二つのホメオドメイン転写因子結合部位は胚の頂端側半分や胚柄における発現に必要であるが、表皮特異的な発現には必須でないことが分かった。面白いことにATML1は胚のapical-basal軸上の位置に応じて違った発現調節を受けており、さらに、apical-basal軸の形成に関わる植物ホルモンであるオーキシンとは無関係に表皮特異的な発現が決まることが分かった。現在、本研究で得られた配列を利用して、位置に応じた遺伝子発現を制御する転写因子の単離を進めている。