抄録
イネ科植物は三価鉄キレーターであるムギネ酸類を根圏に分泌し、鉄―ムギネ酸錯体のまま吸収するという独特な鉄獲得機構を持っている。鉄ームギネ酸錯体の輸送を司る遺伝子はトウモロコシ(ZmYS1)とオオムギ(HvYS1)から単離されているが、HvYS1は鉄―ムギネ酸錯体を特異的に輸送するのに対し、ZmYS1は鉄以外の金属とニコチンアナミンも輸送できる性質を持っている(Murata et al., 2006)。本研究ではその基質特異性の違いを明らかにするために、組織別ZmYS1の発現や日周変動、コードされているタンパク質の局在性などについて調べ、HvYS1と比較した。ZmYS1は鉄欠乏によって発現が誘導され、根と地上部とも発現が認められた。しかも根と比べ、地上部でのZmYS1の発現が高かった。これは主に根で発現しているHvYS1とは異なっていた。地上部では鉄欠乏が進んだ新葉のほうが古い葉よりZmYS1の発現が高かった。トウモロコシのムギネ酸分泌とZmYS1の発現の日周性を調べたところ、明確な日周性を示すオオムギのムギネ酸分泌とHvYS1の発現とは違いトウモロコシにおいてはムギネ酸分泌とZmYS1の発現は明確な日周性を示さなかった。ZmYS1の抗体を用いて抗体染色を行った結果、ZmYS1はHvYS1同様根の表皮細胞に局在していた。現在、ZmYS1の地上部での細胞局在性について調べているところである。