抄録
イネ棍棒状胚(club-shaped embryo; cle)変異体は球状胚期以降、野生型にはない棍棒状の胚を形成し胚性致死に至る劣性突然変異体の1つである。我々はcle型を示す10系統を同定しアレリズム検定を行った結果、この表現型は少なくとも3遺伝子座(CLE1-CLE3)に支配されていることを明らかにした。このうちの1つCLE1は、ポジショナルクローニングの結果、イネDicer-like1 (OsDCL1)が原因遺伝子の有力候補と考えられた。cle1のアリル3系統のOsDCL1をシーケンスした結果、RNase IIIドメイン内での1アミノ酸置換を導く点突然変異、N末端領域のナンセンス変異、エキソンイントロン境界の変異が見いだされた。
OsDCL1の発現パターン解析では、野生型の受粉後4-6日の基部領域で特異的発現が検出され、OsDCL1によるmiR167を介した標的遺伝子の一つであると考えられるARF8の発現は、cle1の遺伝的背景でその時期、領域で亢進していた。一方、未分化領域のマーカーであるOSH1は、野生型では受粉後3-4日のイネ胚腹側のSAM予定領域で発現するが、cle1変異体ではSAM予定領域に限定されず基部全体の背腹両側に発現が広がって検出された。このことからcle1胚では、DCL1の機能欠失によって基部領域全体の細胞が未分化のまま維持されている可能性が示唆された。