抄録
穀物は外来の窒素濃度が低いときに、根を伸長させることが知られているが、この機構は明らかではない。本研究では、イネにおけるNH4+の根での吸収、輸送、同化あるいはその後の代謝を制御している遺伝子群の同定を目的とした。様々なNH4+濃度で栽培されたイネの根長を窒素利用の指標として、そのQTLマッピング、並びに第6染色体長腕のQTLに関する高精度連鎖解析を行った。
Koshihikari及びKasalathに由来する染色体断片置換系統群 (CSSLs) を、5, 50, 500 μM NH4+濃度で水耕法 (pH 5.5)により育成した。Koshihikariと各CSSLの播種7日後の根長を比較したところ、様々なNH4+濃度において根長を支配しているQTLが、第1, 2, 4, 6-12染色体に検出された。それらの中で第6染色体長腕に検出されたQTLは、全てのNH4+濃度において寄与率が最も高く、Kasalathの対立遺伝子が根の伸長を促進させることが判明した。また、50, 500 μM NH4+濃度において、このQTLのKasalathの対立遺伝子は、個体あたりの窒素含量を増加させることが判明した。一方、5, 1000 μM NH4+濃度において、窒素蓄積へのQTL効果は認められなかった。これらより、QTL原因遺伝子は、特定のNH4+濃度域における窒素利用に重要な機能を担っていることが示唆された。第6染色体長腕の戻し交雑後代において、根長を指標とした目的QTLの高精度連鎖解析を行ったところ、QTL原因遺伝子は 24.3kbの領域に位置づけられた。