抄録
イネ科植物の鉄欠乏耐性の強さはムギネ酸分泌量と比例している。しかし、オオムギとの混植により鉄欠乏時のイネの鉄含量を増加させても、オオムギとイネでは鉄欠乏時のクロロシスの現れ易さや葉の展開維持が異なる。この現象より、我々はオオムギの鉄欠乏耐性の強さには鉄獲得能力に加え、体内の鉄利用効率も関係していると考える。現在までに、鉄欠乏耐性の強いオオムギは他のイネ科植物(イネ・ソルガム)よりも鉄要求量が少なく、体内の少ない鉄を有効に利用していることを示してきた。また、体内の鉄の形態と葉色との相関より、高分子を含む水溶性鉄が葉色維持に関わっている可能性が示されている。そこで今回は、体内の鉄の貯蔵と恒常性に関与しているフェリチンに着目した。水耕液鉄濃度を段階的に変化させた処理区でイネとオオムギの混植栽培を行い、フェリチンのmRNAおよびタンパク質の蓄積量を比較した。mRNAの蓄積量はどちらの植物でも下位葉で一番高く、イネでは鉄過剰で著しく増加したのに対して、オオムギでは鉄欠乏条件下においても鉄過剰時と同等の蓄積量であった。フェリチンタンパク質の蓄積量の比較においても、オオムギは鉄過剰時以外でイネよりフェリチンを蓄積しやすい傾向にあった。オオムギ体内の鉄利用効率とフェリチンの関係について議論する予定である。