抄録
植物色素体ゲノムにコードされた遺伝子群は色素体ゲノムコードの細菌型RNAポリメラーゼ(PEP, plastid encoded RNA polymerase)と核ゲノムコードのT7ファージ型RNAポリメラーゼ(NEP, nuclear encoded RNA polymerase)の2種類のRNAポリメラーゼによって転写される。シロイヌナズナからは3つのNEP遺伝子が同定され、色素体にはRpoTp (RpoT;3)とRpoTmp (RpoT;2)の2つが局在することが示唆されている。今回我々はRpoTpの機能欠損変異株を解析した。発芽初期にアルビノを示すこのΔrpoTp株(sca3-2)は、糖脂質合成がほとんどできないことが示唆された。異常は葉肉細胞に顕著で細胞数の減少と肥大化、空隙の増加が見られた。また、ショ糖を含む培地上でΔrpoTp株の子葉では葉緑体の再構築と推測される形態変化と不完全な緑化が観察された。一方、本葉では色素体分化の非同調性が観察され、RpoTpに葉緑体発達を同期する機能かあることが示唆された。一方、ΔrpoTp株ではNEP依存の遺伝子、PEP依存の遺伝子ともに顕著に影響を受けていた、ただし、RpoTpは色素体遺伝子の発現に非常に重要であるが、生育後期に不完全な緑化が起こることからRpoTmpによる機能的相補の可能性も示唆された。以上の結果をもとに、RpoTp、RpoTmpの機能的差異について考察する。