抄録
細胞周期の中心的な制御因子はサイクリン依存性キナーゼ(CDK)である。シロイヌナズナではCDKはA~Fの6タイプに分類されている。このうち、CDKF;1は植物特異的なCDKであり、これまでの研究によりCDK活性化キナーゼ(CDK-activating kinase; CAK)として機能することがわかっている。そこで、今回植物体におけるCDKF;1の機能解析を行う目的で、T-DNA挿入変異体を単離し、その表現型を観察した。cdkf;1変異体では、発芽後、根の成長が著しく阻害されていること、コルメラの細胞層が少ないことが明らかになった。また、根端分裂組織でCYCB1-GUSの発現がほとんど見られなくなることから、cdkf;1変異体では、根端における細胞分裂が極端に抑制されていることが示された。一方地上部においては、地上部全体が矮小化すること、葉の細胞数が減少し個々の細胞が小さくなること、倍数性が低下していたことから、地上部でも細胞分裂が抑制され、葉の細胞伸長も阻害されていると考えられる。これらの結果から、cdkf;1変異体では分裂サイクルおよびエンドサイクルへの突入が阻害されているという可能性が考えられる。しかし、成熟胚では形態的な異常が認められなかったことから、CDKF;1は後胚発生的な細胞分裂において極めて重要な因子であると考えられる。