抄録
我々は、アグロバクテリアによる大規模形質転換と強力なポジティブ・ネガティブ選抜及びPCRスクリーニングを組合せ、イネの8遺伝子を遺伝子ターゲティングにより個別改変し、同一な変異を持つ複数の改変植物を再現的に作出して、相同組換えを介した普遍的遺伝子ターゲティング法を確立した。そこで、イネ11番染色体上に3つの遺伝子が同方向に並んで座乗しているAdh遺伝子(Adh1、Adh2)を用いて、ターゲティングに係る組換え過程の解析を行った。先ず強力なポジティブ・ネガティブ選抜の生残りカルス中の導入遺伝子を解析したころ、T-DNAは断片化され、全てポジティブマーカーを有し、機能しうるネガティブマーカーは有していなかった。即ち、ポジティブ・ネガティブ選抜のエスケーピーは全くなく、T-DNAボーダー配列を介した高頻度のランダムな挿入を効果的に排除できたため、多くの場合、得られた形質転換カルスのターゲティングの頻度はマウスのES細胞と同程度となることが判明した。また、目的通りの相同組換え(true gene targeting:TGT)以外に、2回の組換えの内一方は相同組換えで他方は非相同組換えにより生じるOSI (one-sided invasion)も稀に観察された。さらに、相同領域に複数の塩基置換を導入したベクターを用いて、相同組換えのcrossover pointsも検討した。得られた結果を基に、ターゲティングに係る組換えの分子機構を多面的に考察する。