抄録
フィチン酸は、イノシトール6リン酸(IP6)の別称で、myo-inositol環に存在する6つのヒドロキシル基全てにリン酸基が1つずつ結合した低分子である。種子におけるリン酸貯蔵物質としてよく知られている。酵母では、IP6がmRNAの核外搬出に関わっている事が報告されている。高等植物では、フィチン酸の生合成に関与するとされる酵素は複数知られており、それらの変異体では、根毛の伸長や花粉管の伸長等に異常が見られる。しかし、イノシトールリン酸の生合成や生理的役割に関しては、尚不明の点が多い。
私達は、植物細胞におけるフィチン酸の生合成経路とその生理機能を解明するために、植物の培養細胞を用いて、フィチン酸の生合成を誘導する系を立ち上げる事を試みた。培地にKH2PO4を加えた結果、シロイヌナズナの培養細胞Deep株でフィチン酸の生合成を誘導する事に成功した。フィチン酸の生合成の最終段階に働くと考えられているAtIPK1と呼ばれるイノシトールリン酸キナーゼに、蛍光タンパク質GFPを繋げ、Deep培養細胞に一過的に発現させたところ、細胞質ゾルにGFPの蛍光を確認した。これまでフィチン酸は小胞体内で合成される可能性が示されていたが、Deep培養細胞においては、フィチン酸は細胞質ゾルで合成されている可能性が示唆された。