抄録
当研究室では,耐塩性を獲得した耐塩性光合成成育突然変異系統pst2 (photoautotrohic salt tolerance 2) においてAtbHLH19転写因子の発現が野生系統に比べて特異的に高いことを明らかにした.AtbHLH19は,塩ストレスにより第一イントロンの一部が選択的スプライシングを受けた不完全スプライス型のmRNAだけでなく,第一イントロンが除かれた完全スプライス型のmRNAも混在する.本研究では,植物の耐塩性獲得の過程におけるAtbHLH19の機能の解明を目的とした.
2種類の転写産物を強制発現したシロイヌナズナ形質転換系統は,両者とも野生系統よりも高い耐塩性を示した.さらに,マイクロアレイ解析を行い,完全スプライス型および不完全スプライス型タンパク質により発現を制御される遺伝子を特定した.現在,その遺伝子のプロモーター領域にbHLH19が結合することを確認するため,ゲルシフトアッセイを検討している.また,AtbHLH19に相同な遺伝子がシロイヌナズナに3種類存在するため,これらとのヘテロダイマーの形成によるDNA結合能の変化についても検討する.以上を踏まえ,AtbHLH19転写因子の機能および耐塩機構への関与を考察する.