抄録
我々はFOX Hunting Systemを用いてシロイヌナズナのgain-of-function型細胞死形質変異体を単離した.本過剰発現体(35S::DEAR1)はロゼット葉に病斑様の細胞死が恒常的に引き起こされ、セネッセンスが促進される特徴を持つ。35S::DEAR1の導入遺伝子DEAR1(DREB and EAR motif protein)は,DREBドメインとEARドメインを持つ転写抑制因子をコードしていることが示唆された.
DEAR1の遺伝子発現は病原体感染シグナルによって誘導された。35S::DEAR1では、1)病原体抵抗性遺伝子の発現上昇, 2)SAの内生量の増大が観察された.これらの結果より35S::DEAR1が示す細胞死は,病原体に対する抵抗性獲得を目的とした戦略的細胞死であると結論した.DEAR1の遺伝子発現は低温処理によっても誘導された.35S::DEAR1では、1)DREB1Aおよびrd29Aなどの低温誘導性遺伝子の多くが抑制され,2)耐凍性が低下していることが観察された.これらの結果からDEAR1は低温応答のホメオスタシスを保つ役割も担っていると考えられた。以上の結果から,DEAR1は病原体応答と低温応答の両方に関与することが明らかとなった。すなわち、DEAR1は生物的ストレスおよび非生物的ストレスのシグナル伝達経路のクロストークの鍵となる抑制型転写制御分子と考えられ、これについて議論したい.