抄録
環境ストレスに対応するシステムの一つとして、進化による適応がある。形態変化や抵抗性獲得はその代表的な例である。分子レベルでは、その原動力になる因子としてタンパク質の多様化が考えられる。本研究では、タンパク質の多様化を生む現象のうち、細胞内局在性の変化をとりあげた。実験的には、核から葉緑体へ局在を変化させるタバコのNtWIN4蛋白質について検討した1)。NtWIN4は、病傷害によって誘導され、クロロシスを介して過敏感細胞死に関わる2)。NtWIN4は典型的なbHLH蛋白質である2)。bHLHは核の転写因子モチーフとして知られているため、NtWIN4は核の転写因子が葉緑体蛋白質に転用されたもの、と推定した。事実、最初のAUGではなく二番目のインフレームAUGから翻訳されたタンパク質が葉緑体型となる事を示めしたが、その機構は不明であった。今回、最初のAUGが欠失した短いmRNAを同定した。このmRNAから葉緑体型NtWIN4が翻訳されたため、mRNAの長さの違いが細胞内局在性を変化させた原因の一つであることが示された。また、本講演では、タバコの複二倍体化が起こしたと考えられるNtWIN4の自然淘汰に関しても述べたい。
1) Kodama, Plant Biotechnol (2007)
2) Kodama and Sano, J Biol Chem (2006)